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1.景気の現状
内閣府が3月9日に発表した2019年10-12月期のGDP成長率は、消費税率引き上げによる駆け込み需要の反動減や台風、暖冬の影響もあり、実質で前期比マイナス1.8%(年率換算マイナス7.1%)であった。設備投資は前期比4.6%減であった。個人消費はマイナス2.8%であった。駆け込み需要の反動減に加え、消費者の節約志向が引き続き強いため、負担の増加が消費減につながったものと思われる。内需の寄与度はマイナス2.3%、輸出から輸入を差し引いた外需の寄与度は0.5%であった。名目GDP は前期比マイナス1.5%(年率換算マイナス5.8%)であった。2019年(暦年)のGDP は、実質で前年比0.7%増、名目で1.2%増であった。
西村経済財政政策担当大臣は、「新型コロナウイルスの影響が世界全体に広がりつつあり、我が国経済にも相当の影響をもたらしてきている。まずは流行を早期に終息させることが最大の課題である。緊急対応策を着実に実行することで、中小・小規模事業者への資金繰り支援や雇用維持をさらに強力に支援することを含め、必要な対策をしっかり講じていく。同時に、こうした海外発の下方リスクを乗り越えるために策定した総合経済対策を着実に実行するとともに、今後も、内外経済への影響をしっかり見極め、必要かつ十分な経済財政政策を躊躇なく実行していく」としている。
※CI(コンポジット・インデックス):構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポ(量感)を示す
内閣府が4 月23 日に発表した景気動向指数(CI:2015 年=100)の改定値では、景気の現状を示す一致指数は、前月比0.3 ポイント上昇の95.5 となった。数か月後の景気を示す先行指数は1.2 ポイント上昇し91.7となった。基調判断は前月と同じく、「景気動向指数(CI-致指数)は、悪化を示している」としている。
2019 年は年初から米国や中国の経済指標の良好な結果を受け、4 月下旬にかけてドル・円レートは111円台まで円安が進んだ。8月は米中間の関税の応酬を受けて、1ドル106円台まで円高となったが、秋以降は米中通商協議の進展に対する期待から円安基調となり、12月は109円台まで円安が進んだ。2020年は新型コロナウイルス感染拡大による、米国の金利政策や経済政策によって円相場が影響を受ける構図が当面続くものとみられる。
項目 | 月例経済報告 (2020年4月 内閣府) |
経済・物価情勢の展望 (2020年4月 日本銀行) |
景気判断 | 新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある | 内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、厳しさを増している |
個人消費 | 感染症の影響により、急速に減少している | 感染症の影響により、飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少している |
設備投資 | おおむね横ばいとなっている | 増勢の鈍化が明確となっている |
輸出 | 感染症の影響により、このところ減少している | 海外経済が急速に落ち込んでいるもとで、減少している |
生産 | 感染症の影響により、減少している | 鉱工業生産は減少している |
企業収益 | 感染症の影響により急速に減少している | 足もとでは感染症拡大の影響から下押し圧力が強まっている |
企業の業況判断 | 感染症の影響により、急速に悪化している | 感染症拡大の影響から悪化している |
雇用情勢 | 感染症の影響により、足下では弱い動きがみられる | 感染症拡大の影響が強まるなかで、弱めの動きがみられ始めている |
消費者物価 | このところ横ばいとなっている | 前年比は、0%台半ばとなっている |
2020年4月の月例経済報告では、景気は「新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」としている。2月まで「緩やかに回復」としていた景気判断を、3月に「大幅に下押しされている」に引き下げたばかり。感染拡大を受け、2カ月連続で景気判断を下方修正している。「悪化」の表現を使うのは、リーマン・ショック後の2009年5月以来、11年ぶり。会見で、西村経済財政政策担当大臣は「家計や企業の経済活動が急速に縮小する過去に例を見ない、極めて厳しい状況」と述べている。日本銀行も基調としては、「厳しい経済状況」と判断している。
2.景気の見通し
項目 | 月例経済報告 (2020年4月 内閣府) |
経済・物価情勢の展望 (2020年4月 日本銀行) |
景気の見通し | 先行きについては、感染症の影響による極めて厳しい状況が続くと見込まれる | 当面の日本経済は、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、厳しい状態が続くとみられる 各国・地域で、外出・出入国制限や営業・生産活動の停止措置などの感染拡大防止策がとられている結果、経済活動が大きく制約されている 感染拡大が収束に向かうまで、経済活動の抑制が続くと予想され、その間、海外経済は落ち込んだ状態が続くと考えられる 国内需要は、政府の経済対策が下支えとなるものの、感染症拡大の影響を受け経済活動が抑制されるなか、個人消費を中心に落ち込んだ状態が続くとみられる 消費者物価の前年比は、プラスで推移しているものの、先行きは、当面、感染症の拡大や原油価格の下落などの影響を受けて弱含むとみられる |
リスク事項 | コロナウイルス感染症が内外経済をさらに下振れさせるリスクや、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある | 1)新型コロナウイルス感染症拡大による内外経済への影響:感染症拡大の帰趨やそれが収束する時期、収束するまでの間の内外経済に与える大きさや、外出の制限・自粛要請などの感染拡大防止策が経済に与える影響、さらに、感染症が収束した後の経済の改善ペースについても不確実性が大きい 2)企業や家計の中長期的な成長期待:感染症の拡大の長期化などを契機に、企業や家計の中期的な成長期待が低下する場合、感染症収束後も企業や家計の支出意欲が高まりにくいリスクがある 3)金融システムの状況:感染症拡大の影響が想定以上に長引いた場合には、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼし、実体経済へのさらなる下押し圧力として作用するリスクがある |
金融政策 | 日本銀行においては、企業金融の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持する等の観点から、金融緩和を強化する措置がとられている | 日本銀行には経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を実現することを期待する2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的 に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる 政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している |
政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2019」、「成長戦略実行計画」等に基づき、潜在成長力の引き上げによる成長力の強化に取り組むとともに、成長と分配の好循環の拡大を目指す、としている。さらに、誰もが活躍でき、安心して暮らせる社会作りのため、全世代型社会保障を実現する、としている。日本銀行政策委員の実質GDP の見通し(注)は2019年度が▲0.4%~▲0.1%、2020 年度が▲5.0%~▲3.0%、2021 年度が+2.8%~3.9%となっている。
(注)今回、先行きの不確実性が従来以上に大きいことに鑑み、各政策委員は最大1.0%ポイントのレンジの範囲内で見通し(上限値・下限値の2つの値)を作成している。