PRESSRELEASE プレスリリース
環境対応が進む、産業用繊維・次世代繊維・不織布の市場を調査
●セルロースナノファイバー 40百万ドル(90.5%増)
添加剤用途で採用広がる。メーカーが用途開発を行い、モビリティなど産業分野の展開視野
●PLA繊維 4,500百万ドル(2.8倍)
政策としてバイオプラの採用を促進する欧州や中国が需要の中心。日本はアパレル向け活況
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、脱炭素、サーキュラーエコノミーといったトレンドや資源制約への課題解決などの観点から、高機能化や高性能化が進むことで注目度が高まる産業用繊維・次世代繊維・不織布の市場を調査した。その結果を「産業用繊維・不織布関連市場の現状と将来展望 2024」にまとめた。
この調査では、産業用の注目繊維10品目、次世代繊維5品目の世界市場、不織布5品目の国内市場を明らかにし、将来を展望した。また、繊維to繊維のリサイクルや原料のバイオベース化など、2030年頃の実用化に向けて進んでいる繊維のサスティナビリティに関する開発動向や課題についても整理した。
◆注目市場
●セルロースナノファイバー(CNF)【次世代繊維】
木材などの植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズまで細かく解きほぐした繊維状物質である。セルロース同様、再生可能資源であり、生分解性や生体適合性を有し、有機溶剤耐性に優れるほか、軽量、高強度、高弾性率、低線膨張率といった特徴を有する。日本製紙や大王製紙など日系製紙メーカーが多く参入している。
現状、食品、化粧品、ゴム、塗料、3Dプリンター用材料、建材、コンクリートでの添加剤用途が中心である。CNFを添加することで高い増粘性や乳化安定性などの効果があり、かつ安全性や有用性が認められていることから、市場規模は小さいものの徐々に採用が広がり、拡大している。
メーカー各社は積極的に用途開発を行い、2023年にはCNF強化樹脂が水上オートバイ部材に採用されるなど、モビリティへの展開が進められている。製品価格の高さが課題であり、大幅なコストダウンが望まれているため、生産プロセスの改良なども取り組まれている。
●PLA繊維(バイオプラスチック繊維)【次世代繊維】
生分解性が特徴である、とうもろこしなどのでんぷんを利用して生産されるPLA繊維を対象とする。高温多湿な環境下での長期使用による劣化が起こる可能性があるが、物性改良などにより克服しつつあり、使用シーンは増えている。
世界的なバイオエコノミーへの移行気運の高まりやエコデザイン化の流れを受け、市場は大きく拡大している。特に、政策としてバイオベースプラスチックの採用を促進している欧州や中国が需要の中心である。このほか、北米ではシェールガス採掘時に使用するプロパントに使用されており、シェールガス増産に伴い伸びている。
日本においては、市場を後押しする政策はみられないものの、農業用資材や土嚢袋や防草シートといった土木資材で以前より使用されており、近年はスタートアップ企業や商社が、アパレル企業とのアライアンスを進めており、アパレル繊維での展開がみられる。
◆調査結果の概要
■産業用注目繊維10品目の世界市場
2023年は規模の大きいガラス繊維が低迷しているものの、その他品目の原材料や輸出コストの上昇などを要因とした値上げにより、市場は拡大するとみられる。
産業用繊維は自動車や土木建設、エネルギーなど様々な分野で採用される。ガラス繊維や産業用ポリエステル繊維、産業用ナイロン繊維は汎用的に広く使われており、アジア地域での人口増加や経済成長に伴い、今後は堅調に伸びていくとみられる。
また、苛酷な使用環境や連続使用における耐性など機能を高めたスーパー繊維と呼ばれるアラミド繊維や超高分子量PE繊維、炭素繊維などは、用途開拓などにより高い伸びが予想される。特に炭素繊維は、風力発電ブレードや航空機、圧力容器での需要が伸びており、ガラス繊維の代替も進むとみられる。
<サスティナビリティに関する動向>
今回対象とした10品目のうち、繊維リサイクルの事業化が特に進んでいるのは、パラ系アラミド繊維、産業用ポリエステル繊維、産業用ナイロン繊維である。パラ系アラミド繊維は使用済み最終製品のリサイクルが進み、パルプ状にして再利用されている。また、産業用ポリエステル繊維は再生樹脂を一部バージン品に混ぜたブレンド品の市場が形成されており、産業用ナイロン繊維は、廃棄エアバッグの基布端材が再生品化され、エンジンカバーなどに採用されている。このほか炭素繊維やガラス繊維なども製造工程で発生した廃材のリサイクルなどが行われている。
また、原料のバイオベース化については、産業用ナイロン繊維や産業用ポリエステル繊維で植物由来原料を使用したバイオ製品が実用化されている。炭素繊維ではバイオマス原料を用いたPAN系炭素繊維の開発・認証取得が、パラ系アラミド繊維は使用済みの植物油脂由来の成分を使用した製品の生産技術が開発されており、実用化に向けた研究開発が進められている。
■不織布5品目の国内市場
接着剤などを使用せずに加工するため、化学物質の溶出リスクが低く衛生材料や液体ろ過フィルターなどに多く使用される。高機能化による用途開発が進められており、2023年の市場は1,864億円が見込まれる。
<種類別動向>
規模が大きいスパンボンド不織布は、紙おむつ、ガーゼ、医療用ガウン、マスク、湿布など衛生材料用途が多い。ポリエステル製品はリサイクル品が徐々に伸びるほか、植物由来原料を使用した製品も実用化に向けて開発が進むとみられる。
スパンレース不織布は布のようなソフトな手触りと豊かなドレープ性から衛生材料に加え、フェイスマスク、制汗シート、メイク落としシートなど化粧品での採用が増加している。美容意識の向上やコロナ禍を経験したことによる清潔志向の高まりなどにより今後も伸びが続くとみられる。
ニードルパンチ不織布は、重量・厚密度・強度などの加工が可能であり、強度を向上させることで主に自動車用内装材に使用される。車両軽量化に貢献する素材として、今後も採用が期待される。
湿式不織布は、水処理膜を中心に、一次電池やニッケル水素電池のセパレーターなどに使用される。リチウムイオン電池では使用されないものの、耐熱性や耐薬品性などが向上すれば全固体電池への適用も可能なことから、さらなる高機能化に向けた開発が進められている。
メルトブローン不織布は電池材料や半導体・電子部品などでの採用が増え始めており、細繊化や低目付化技術の向上とともに新たな需要の創出が期待される。
◆調査対象
・ピッチ系炭素繊維
・パラ系アラミド繊維
・メタ系アラミド繊維
・PBO繊維
・超高分子量PE繊維
・産業用ナイロン繊維
・産業用ポリエステル繊維
・ガラス繊維
・導電性繊維
・PLA繊維(バイオプラスチック繊維)
・次世代たんぱく質繊維(人工クモ糸)
・スパンレース不織布
・メルトブローン不織布
・湿式不織布