PRESSRELEASE プレスリリース
■自動車向け二次電池の世界市場 75兆2,236億円(3.5倍)
EVシフト推進や脱中国・原産地規則強化に伴うセル生産の現地調達化が追い風に
現状はLiBが大部分を占めるが、2035年頃から次世代電池の採用が本格化
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、世界的なxEVシフトにより電池メーカーの積極的な投資や生産拡大が進むほか、サプライチェーンの囲い込み戦略や、原産地規則強化を背景としたセル生産の現地調達化(セル生産拠点で必要な部材などの現地調達化)で注目される自動車向け二次電池の世界市場を調査した。その結果を「エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望 2024 電動自動車・車載電池分野編」にまとめた。
この調査では、自動車向け二次電池市場を駆動用と始動用・補機用に分け、その現状を明らかにし将来を予想した。また、世界各国の補助金政策、燃費規制、電池パックや電池モジュール・構成部材の市場についても分析した。
◆調査結果の概要
■自動車向け二次電池の世界市場
走行の動力源となる駆動用は、現状LiBが大部分を占めている。環境規制の強化に伴うxEVの需要増加により市場拡大が続いている。今後もxEV普及に向けた購入補助や税制優遇、2035年までに実施される欧州や中国などでのICEV(内燃自動車)の販売禁止により、環境性に優れるEVへのシフトが進むことからEV向けLiBを中心に今後も市場拡大が続くと予想される。また、xEVの利便性向上や脱炭素製造技術の要望から、2035年以降は製造工程が簡略化できる疑似固体電池や硫化物系全固体電池など次世代電池の採用が増加するとみられる。
生産エリア別では、現状世界市場の50%以上を中国が占めているものの、欧米を中心とした原産地規則強化を背景にセル生産拠点で必要な部材の現地調達が進むことから、今後は欧州や北米、日本での生産増加が予想される。
始動用・補機用はICEVやISSV(アイドリングストップ自動車)、12V系MHV(マイルドハイブリッド自動車)にはエンジン始動用として、48V系MHVやHV、PHV、EVおよびFCVには電池システム(ECU)起動用として搭載される。現状では大部分が鉛電池であるが、今後欧米や中国を中心にLiBの採用が増えるとみられる。xEV市場で需要が増加している一方、内燃自動車の生産減少によりアイドリングストップシステムの採用が減少しており、日本などの先進国を中心に需要減少が予想される。今後も、xEV向けは伸びるが、日本や欧州主要国では内燃自動車の販売禁止を政策に掲げていることから、2050年の市場は2023年比で市場縮小が予想される。
■車種別駆動用二次電池の世界市場
EV向けは、2024年も市場拡大が続くとみられる。EVの50%以上の需要を占めている中国では中央政府によるEV購入補助金政策が終了したものの、都市部・地方省における補助金や主要自動車メーカーの値下げ戦略でEVの販売は伸びている。また、欧州や北米でも、環境規制強化やEV購入に関して税額控除を受けられる米国の「インフレ抑制法」によりEVの需要が増加しており、電池市場は2025年以降も市場拡大が予想される。しかし、北米では2025年の米大統領交代によるEV政策の転換に伴い伸びが鈍化する可能性がある(予測値には含めていない)。今後は、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、EVシフト戦略に基づきEV車種ラインアップの大幅な増加や、環境規制強化に伴う日本や欧州、米国、中国などの内燃自動車販売終了に伴いEV需要が高まることから、2050年の市場は2023年比4.9倍が予想される。
EVトラック・バス向けは、中国や北米、欧州を中心に路線バスやラストワンマイル(消費者へ商品を届ける物流の最後の区間)用のトラック向けなど、市街地を走行する車両でEVの導入が進んでおり、それに伴い電池市場が拡大している。現状、最大の需要地は中国である。中国では路線バスなどでのEV普及に加え、観光用長距離移動バスや都市間物流向けの中長距離トラックなどでも中心にEV化が進むとみられる。欧州では、燃費規制強化の影響で2025年頃にはEV需要が増加し、EV用LiBは容量ベースで中国に次ぐ規模に拡大すると予想される。今後もカーボンニュートラルを実現するため物流や公共交通機関でEV化が進み、使用される電池市場も拡大するとみられる。
HV向けは、現状の採用比率は数量ベースでLiBが約75%、ニッケル水素電池が約25%である。2023年以降、EV需要が伸び悩んでいることや、2025年にかけても原油価格の高止まり傾向を背景に、燃費性の高いHVの需要が増えているため市場拡大が予想される。しかし、今後は先進国を中心とするEVシフトの本格化に伴い、早くも欧州では2030年以降、日本では2035年以降に、続いて北米や中国でもHVの販売台数が減少するとみられる。一方で、人口増加や経済成長が期待されるインドやASEANなどで当面需要が増加するため、2030年頃までは電池市場も順調な拡大が予想される。
◆注目市場
●LiB/次世代電池用電解液
電解液とは、イオン性物質(電解質)を有機溶媒などに溶解させた電気伝導性を持つ溶液であり、電池を構成する要素の一つである。
中国や欧州、北米が需要の中心であるが、大半が中国や韓国、日本で生産された電解液を採用している。近年は、可燃物の移動規制などによって輸出に時間やコストを要するため、LiBセル生産地に近い場所に電池生産拠点の整備が進んでおり、北米や欧州の生産拠点整備も進んでいる。ただし、欧州では有機溶媒などの物質への環境規制などが厳しいことから、工場建設や運営に制約が生じる可能性がある。
今後も、EV市場の成長に伴いLiB用の需要拡大が予想される。急速充電のニーズの高まりから高温時も性能劣化が少ない特性があるLiPF6やLiFSIなどが市場をけん引、また、欧州や北米での現地生産比率も上昇するとみられる。有機溶媒を利用しない固体電解質を採用した全固体電池は環境規制が厳しい欧州や北米では開発メリットが大きいため、市場拡大に貢献するとみられる。
◆調査対象
二次電池・鉛電池
・リチウムイオン電池(LiB)
・ニッケル水素電池(NiMH)
・電気二重層キャパシタ(EDLC)
・リチウムイオンキャパシタ(LiC)
・次世代電池
駆動用電池/補機用電池搭載車両
・MHV(12V系/48V系マイルドハイブリッド自動車)
・HV(ハイブリッド自動車)
・PHV(プラグインハイブリッド自動車)
・EV(電気自動車)
・FCV(燃料電池自動車)
・HV/PHVトラック・バス
・EVトラック・バス
駆動用電池搭載車両
・マイクロEV(ミニカー、超小型モビリティ)
始動用電池搭載車両
・ICEV(内燃自動車)、ISSV(アイドリングストップ自動車)
車載電池構成部材・材料
・LiB/次世代電池用正極活物質
・LiB/次世代電池用負極活物質
・LiB/次世代電池用電解液
・LiB/次世代電池用セパレータ
・LiB/次世代電池用正極集電体
・LiB/次世代電池用負極集電体
・LiB/次世代電池用セル筐体
・高圧電流遮断器(パイロヒューズ)