PRESSRELEASE プレスリリース

第24117号

多様な分野で使用が広がる膜・フィルターの市場を調査
― 2030年予測(2023年比) ―
■水処理膜の世界市場 5,010億円(54.2%増)
都市化と工業化が進み、水資源の確保を目的とした水インフラ整備や設備投資が増加
■膜・フィルター市場 
日本市場 3,012億円(25.7%増) 日系メーカー海外販売 2,393億円(54.8%増)
水の再生利用ニーズの高まり、半導体や燃料電池などの工場新設により需要増加で市場拡大

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、水環境や空気浄化などの環境分野だけでなく、半導体などのエレクトロニクス分野や燃料電池などのエネルギー分野での需要の高まりで注目が集まる分離膜・フィルターの市場を調査した。その結果を「高機能分離膜/フィルター関連技術・市場の全貌と将来予測 2024」にまとめた。

この調査では、水環境分野7品目、大気・空質分野3品目、半導体分野3品目、エネルギー分野6品目、ライフサイエンス分野3品目、食品・飲料分野3品目、工業プロセス分野6品目の計31品目を対象に膜・フィルター市場を調査、分析し、将来を展望した。なお、市場は日本市場、日系メーカーの海外販売額、一部品目では世界市場を捉えた。

◆調査結果の概要

■膜・フィルター市場【日本市場+日系メーカー海外販売】

膜・フィルター市場【日本市場+日系メーカー海外販売】

2024年は、需要が旺盛な半導体分野や水の再生利用ニーズの高まりで水環境分野などが特に伸長し、市場は前年比7.0%増が見込まれる。今後、半導体などのエレクトロニクス分野や、バイオ医薬品の注目度が高まっているライフサイエンス分野、脱炭素機運の高まりで水素を利活用する手段として燃料電池の普及が期待されているエネルギーやモビリティ分野などで、膜・フィルターの活用が進み市場は拡大するとみられる。

■膜・フィルター市場【日本市場+日系メーカー海外販売の分野別】

膜・フィルター市場【日本市場+日系メーカー海外販売の分野別】

水環境分野は、飲料水などライフラインに関わる用途が多い水処理膜の需要が伸びている。日本市場はリプレースが中心であり、需要は安定している。また、日系メーカーの海外販売は、中国や南・東南アジアなどで飲料水確保や衛生施設の整備に伴う需要の増加、経済成長率が高い米国で好調に伸びている。日本国内よりも海外需要が大きく伸びも高いことから日系メーカーの海外展開が進むが、中国やインドなどの新興メーカーの台頭も著しい。今後は、日系や欧米メーカーと新興国メーカーの競争が激化するとみられる。

大気・空質分野は、半導体工場の新設増加でエアフィルター(HEPA/ULPA)やケミカルフィルターの需要が伸びている。大半が日本国内需要であるものの日系メーカーは海外需要の取り込みにも注力している。

半導体分野は、日系メーカーは日本市場を軸に展開している。液体ろ過用カートリッジフィルターや半導体ガスフィルターは、生成AI向けのロジック半導体やパワー半導体など需要増加に伴う工場の新設などで今後も伸長するとみられる。また、EVの需要増加で二次電池製造時や自動車生産ラインのロボットに使用される膜式エアドライヤーの日本国内での伸びも期待される。

エネルギー分野は、日本市場、日系メーカーの海外販売ともに、燃料電池に使用されるフッ素イオン交換膜や加湿膜がFCVの普及に伴い、長期的には大きく市場拡大するとみられる。水素社会の実現に向け水素ステーションなどのインフラ設備や補助金事業の進展に伴い、伸長する。

ライフサイエンス分野は、バイオ医薬品関連の需要増加を背景に、日本国内では液体ろ過用カートリッジフィルターをはじめ各品目が堅調である。今後も、原薬製造の国内回帰の動きやバイオ医薬品の特許切れに伴うバイオシミラーの開発などで伸びが期待される。

食品・飲料分野は、消費者の健康意識や防災意識の高まりで清涼飲料水の製造時使用される液体ろ過用カートリッジフィルターの需要増が予想されるが、長期的には日本国内で人口減少の影響も大きいため、市場は微増で推移するとみられる。

工業プロセス分野は、半導体の需要増加やカーボンニュートラル実現に向けて注目が集まる炭素繊維の製造に使用される焼結金属フィルターの伸びが期待される。

■水処理膜の世界市場

水処理膜の世界市場

【MF膜/UF膜】

水処理用の精密ろ過膜(MF膜:Micro Filtration)および、限外ろ過膜(UF膜:Ultra Filtration)のモジュールを対象とする。ライフラインに関わる用途(官需)が多く、水資源の保全・確保には欠かせない製品である。なお、家庭用浄水器向けカートリッジタイプのMF膜/UF膜は対象外とする。

都市化と工業化が進み水インフラ整備や設備投資が増加しているため、市場拡大が続いている。近年は、市場が大きい米国や中国のほか、南・東南アジアや中南米などの新興国の新規需要が市場成長をけん引している。日本や欧州などの成熟市場は伸び率が緩やかであるが、過去の導入先から安定したリプレース需要があり、市場の基盤となっている。

2023年は、産業活動の復調や水対策の世界的な進展などによって市場が拡大した。2024年以降も、米国や欧州、中東などの主要需要地で新規受注の増加が期待されることから、市場は拡大するとみられる。

【MBR用膜】

膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio Reactor)に用いられるMF膜/UF膜モジュールおよびカートリッジを対象とする。生物処理と膜処理が一体化した処理技術で、従来に比べ処理プロセスを短縮でき、沈殿槽などが不要で省スペース化が可能となる。

2023年は、最大の需要地である中国が伸びたため市場は拡大した。2024年は、中国では民需が苦戦しているが、北米と欧州で排水処理・再利用を促す法規制が整備され需要が増加している。MBRは、排水処理能力向上を目的とした導入が多く、大手参入企業を中心に水不足の地域での展開が進んでいる。持続可能な水資源の利活用への取り組み、また、情報開示を行う企業が増加しており、水不足対策に有効な手段として導入が増加するとみられる。

今後も、水ストレスの高い地域にある工場や都市汚水・下水処理場で排水処理・再利用を目的に導入が進むことから市場拡大が予想される。特に、処理流量の規模が大きい灌漑用水や高い水質が要求される工業プロセスで、水資源を確保する手段の一つとしてMBRをベースとする水処理手法の採用が進んでいくとみられる。

【RO膜/NF膜】

逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis)、ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration)を対象とする。

2023年は、これまで市場をけん引してきた新興国に加え、成熟市場である先進国においても、水資源の確保を目的に新規需要が増加し市場は拡大した。一方で、最大の需要地である中国は成長を維持するものの、外資系メーカーの生産拠点海外移転の影響を受け、伸びは鈍化している。

2024年は、水不足による水リサイクルの世界的な推進で、水質の良い再生水の処理に欠かせない水処理技術として、RO膜/NF膜の需要が増加するとみられる。特に、RO膜の需要が大きいエレクトロニクス産業が回復基調にあることや、主要国や大企業を中心に持続可能性や地球規模での環境保全に関する取り組み、水資源の確保について年々注力度が増しており、今後も需要が増加するとみられる

◆注目市場

1.大気・空質分野_エアフィルター(HEPA/ULPA)

大気・空質分野_エアフィルター(HEPA/ULPA)

HEPAフィルター、ULPAフィルターは半導体関連や製薬関連産業で使用されるクリーンルームが主な需要先である。粗塵フィルターや中高性能フィルターと比較して交換周期が3年から5年と長くリプレースが少ないことから、市場は半導体工場や医薬工場の新設状況に左右される。

2022年から2023年は、半導体工場やワクチン製造を含むバイオ医薬品工場の建設数増加で需要が増え、市場は拡大した。2024年は、新型コロナワクチンなどの生産体制整備を目的とした医療関連の特需が落ち着いたが、半導体工場の新設が続き安定的な需要の獲得によって、市場拡大が予想される。今後、半導体工場の増設や政府の医薬品製造施設整備の補助金制度導入などにより、半導体工場や医薬工場整備が活発化すれば、さらに市場は大きく拡大するとみられる。

2.半導体分野_液体ろ過用カートリッジフィルター(エレクトロニクス)

半導体分野_液体ろ過用カートリッジフィルター(エレクトロニクス)

半導体や電子部品、ディスプレイ、およびそれらの製造工程で使用される微細化の必要な材料・消耗品など、エレクトロニクス関連の製造工程で必要な液体ろ過用カートリッジフィルターを対象とする。

市場は半導体の市況に左右される。2021年以降の世界的な半導体不足の影響を受けて、半導体材料メーカーなどがサプライチェーンの不安定化を懸念してフィルターの在庫を抱え込むなどしたため、2022年まで市場は拡大していた。しかし、2023年は半導体不況に伴うデバイスメーカーの在庫調整の影響で市場は縮小した。2024年は、半導体不況からの回復で半導体材料の需要が高まっていることから、市場は拡大するものの、特需が続いた2022年の市場規模は下回るとみられる。

今後も、半導体の需要増加でフォトレジストをはじめ半導体材料の工場新設・増設が国内外で計画されている。特に、生成AIのCPUやGPUなどのロジック半導体といった先端半導体が伸びており、フィルターは先端半導体に使用されるEUVレジストなどの材料の製造に必要であることから、市場拡大が予想される。

◆調査対象

水環境分野
・精密ろ過膜(MF膜)/限外ろ過膜(UF膜)
・逆浸透膜(RO膜)/ナノろ過膜(NF膜)
・MBR(膜分離活性汚泥法)用膜
・脱気膜/給気膜
・活性炭フィルター(液相用)
・RO膜支持体
・正浸透膜(FO膜)

大気・空質分野
・エアフィルター(粗塵、中・高性能)
・エアフィルター(HEPA/ULPA)
・ケミカルフィルター

半導体分野
・液体ろ過用カートリッジフィルター(エレクトロニクス)
・半導体ガスフィルター
・膜式エアドライヤー

エネルギー分野
・アルコール脱水膜
・フッ素系イオン交換膜(燃料電池用)
・加湿膜
・フッ素系イオン交換膜(水電解用)
・CO₂分離膜
・水素分離膜

ライフサイエンス分野
・液体ろ過用カートリッジフィルター(医薬・バイオ)
・透析膜(ダイアライザー)
・ウイルス除去フィルター

食品・飲料分野
・液体ろ過用カートリッジフィルター(食品・飲料)
・プロセス用膜(MF膜/UF膜)
・炭化水素系イオン交換膜

工業プロセス分野
・液体ろ過用カートリッジフィルター(一般工業)
・酸素・窒素富化膜
・フッ素系イオン交換膜(食塩電解用)
・焼結金属フィルター
・有価物回収膜(DLE用)
・有機溶媒分離膜(OSN)

※各分離膜・フィルターの主要用途を基準に分類しているが、実際にはそれ以外の分野でも使用されるケースがある。

※膜式エアドライヤー、フッ素系イオン交換膜(燃料電池用)、加湿膜、透析膜(ダイアライザー)、ウイルス除去フィルター、フッ素系イオン交換膜(食塩電解用)は日本市場のみ。

※RO膜支持体は対象品目の構成部材のため、合計に含めない。


2024/12/9
上記の内容は弊社独自調査の結果に基づきます。 また、内容は予告なく変更される場合があります。 上記レポートのご購入および内容に関するご質問はお問い合わせフォームをご利用ください、 報道関係者の方は富士経済グループ本社 広報部(TEL 03-3241-3473)までご連絡をお願いいたします。