PRESSRELEASE プレスリリース
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 清口 正夫 03-3241-3470)は、欧州でのリチウムイオン二次電池の生産能力強化に伴い、材料メーカーによる欧州拠点新設の検討が進んでいるリチウムイオン二次電池材料の世界市場を調査した。その結果を「2022 電池関連市場実態総調査 下巻 電池材料市場編」にまとめた。
この調査では、リチウムイオン二次電池材料12品目に加え、アルカリ二次電池材料4品目、一次電池材料4品目、金属資源・出発原料3品目の計23品目の市場を調査・分析した。なお、リチウムイオン二次電池をはじめとする電池セル市場については 「同 <上巻・電池セル市場編>」でまとめており、結果は5月16日に発表している。
◆注目市場
●リチウムイオン二次電池(LIB)材料の世界市場
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2022年予測 |
2020年比 |
2025年予測 |
2020年比 |
正極活物質 |
5兆8,353億円 |
3.7倍 |
7兆8,392億円 |
5.0倍 |
負極活物質 |
6,152億円 |
196.4% |
8,526億円 |
2.7倍 |
電解液 |
5,266億円 |
2.0倍 |
7,529億円 |
2.9倍 |
セパレータ |
5,623億円 |
187.9% |
9,080億円 |
3.0倍 |
その他 |
1兆3,700億円 |
2.4倍 |
1兆8,785億円 |
3.2倍 |
合 計 |
8兆9,094億円 |
3.0倍 |
12兆2,312億円 |
4.1倍 |
※その他はバインダ、集電体、外装材、導電助剤などが対象
LIB材料の世界市場は、2022年に8兆9,094億円が予測される。環境規制対応を背景にしたEV向け、再生可能エネルギー利用促進によるESS向けのLIB需要の増加により市場は拡大し、2024年には10兆円を突破し、2025年には12兆2,312億円が予測される。
市場の半数以上を正極活物質が占めている。これ以外にも、負極活物質、電解液、セパレータ、負極集電体の規模が大きい。正極活物質などで使用されるコバルト、ニッケル、リチウムといった鉱山資源の調達は、これまでLIB材料メーカーが担っていたが、今後LIB需要が大きく増加していく中で安定した調達の重要性がより増しており、今では自動車メーカーによる調達も進められつつある。
また、電池材料メーカーによる欧州進出が増えている点が注目される。これまで、LIBが搭載されるノートPCやスマートフォンなどの小型民生用アプリケーションの製造拠点はアジアが多く、電池の生産も中国をはじめとするアジアに集中していた。しかし、EVは各エリアで生産されるため、EVの普及により北米や欧州などでのLIB需要の増加が予想される。特に、中国に次ぐEVの需要が期待される欧州では韓国電池メーカーや現地の欧州メーカー、一部中国電池メーカーが生産能力強化を進めており、これに伴い材料メーカーの欧州拠点の新設が検討されていることから、今後欧州における電池・電池材料の地産地消が進んでいくとみられる。
【正極活物質】
EV向け電池で採用される三元系(ニッケル・マンガン・コバルト)やハイニッケルが中心である。しかし、三元系やハイニッケルはコバルト、ニッケル、リチウムといった鉱山資源の使用量が多く単価が高いため、ニッケルやコバルトを使用しないため廉価で、安全性が高いリン酸鉄リチウムが増えている。リン酸鉄リチウムは現状中国のEVやEVトラック・バス向け電池が中心であるが、特許期間の満了や中国以外の自動車メーカーによるリン酸鉄リチウムを採用したエントリーモデルEVの投入などにより、中国以外のエリアでの採用が増えていくとみられる。
なお、欧州では欧州材料メーカーによる生産能力強化の動きがみられるが、現状では活物質を集電体に塗布する電極工程はアジアで行われることも多く、中国や韓国メーカーによる欧州進出の動きはあまりみられない。
【負極活物質】
黒鉛系が中心であり、急速充電が行われるEV向け電池では低膨張性を有し電池寿命が長い人造黒鉛系の比率が高い。このほかシリコン系(Si系)、ソフトカーボン・ハードカーボン(SC・HC)、チタン酸リチウム(LTO)の需要も形成されており、高容量化要求からSi系の使用が拡大しつつある。
材料メーカーの欧州進出に関しては、人造黒鉛系では黒鉛化炉の新設は設備投資額が大きいため、既に設置されている黒鉛電極用など他用途の設備の電池向けへの転換による展開が検討されている。しかし、電気代の安価な中国などと比較して、欧州での生産は製造コスト増加が懸念されるため、ハードルが高いとみられる。一方、天然黒鉛系は、人造黒鉛系と比較して低価格・高容量という利点があるものの、急速充電により膨張しやすく電池寿命が短い。しかし、日本メーカーや韓国メーカーが低膨張性を有する天然黒鉛系を開発したことや、欧州では天然黒鉛鉱石の採掘も可能で、熱処理工程を必要とする人造黒鉛系と比べて製造時のCO2排出量が少なくなることから、天然黒鉛系のEV向け電池での採用と、メーカーによる欧州進出が期待される。
【電解液】
2020年に原料となるLiPF6が供給過剰となり価格下落が起こったが、市場は拡大が続いている。化学物質規制の影響で他エリアから欧州への電解液自体の持ち込みが困難であり、輸送期間の長期化による品質面での懸念があることなどから、現地生産のメリットが大きく、ほかの材料に先行して大手メーカーによる欧州生産拠点の新設・増設が進んでいる。
【セパレータ】
ESS向けやHV向け電池では低コスト化や入出力特性が要求されるため乾式セパレータを採用することが多いが、EV向け電池では容量密度向上のための薄膜化ニーズが高く、湿式セパレータの採用が増えている。
中国大手メーカーを中心に生産能力増強・自動化ライン導入による歩留まり向上が進み、スケールメリットを生かした低価格戦略が展開されている。一方、中堅以下のメーカーは苦戦しており、メーカーの統廃合が進んでいる。
電極材の材料となる活物質や集電体、バインダなどは電極工程をどこで行うかによって、生産拠点の設定がなされるが、セパレータは電池の組み立て先に合わせた生産拠点の設定が合理的であるため、輸送コストや関税の観点から現地生産のメリットは大きいとみられ、上位メーカーを中心に欧州進出、生産能力強化が加速している。
◆調査結果の概要
■電池材料の世界市場
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2022年予測 |
2020年比 |
2025年予測 |
2020年比 |
LIB材料(再掲) |
8兆9,094億円 |
3.0倍 |
12兆2,312億円 |
4.1倍 |
アルカリ二次電池材料 |
1,762億円 |
2.1倍 |
1,993億円 |
2.4倍 |
一次電池材料 |
2,562億円 |
194.1% |
2,995億円 |
2.3倍 |
合 計 |
9兆3,418億円 |
2.9倍 |
12兆7,300億円 |
3.9倍 |
LIB材料の伸びが電池材料市場をけん引しており、2022年は9兆3,418億円が予測される。LIB需要の増加に加え、HV向けニッケル水素電池の堅調な伸びにより市場は拡大し、2025年は12兆7,300億円が予測される。
一次電池材料市場は、成熟した一次電池の需要とLIB正極活物質の前駆体としても使用される電解二酸化マンガンの伸びにより、堅調な推移が予想される。アルカリ二次電池材料市場は、HV向けニッケル水素電池の堅調な需要に加え、原料となるニッケルの価格高騰により正極活物質や集電体の価格が上昇しており、市場が大きく拡大している。
◆調査対象
二次電池材料 |
リチウムイオン 二次電池材料 |
・正極活物質 |
・正極バインダ |
・金属外装缶用ニッケルめっき鋼板※ |
・負極活物質 |
・負極バインダ |
・角型用アルミ板 |
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・電解液 |
・正極集電体 |
・ラミネート外装材(アルミ箔・SUS箔) ※ |
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・セパレータ |
・負極集電体 |
・導電助剤 |
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アルカリ 二次電池材料 |
・正極活物質(水酸化ニッケル、硝酸ニッケル ) |
・セパレータ |
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・水素吸蔵合金 |
・集電体(パンチングメタル、発泡ニッケル ) |
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一次電池材料 |
・電解二酸化マンガン※ |
・金属リチウム箔 |
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・亜鉛粉 |
・アルカリマンガン乾電池用セパレータ |
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金属資源・出発原料 |
・重要鉱物 |
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・LIB正極前駆体 |
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・電解質塩(LiPF 6 、LiBF 4 、LiTFSI、LiFSI) |
※その他電池向け含む