PRESSRELEASE プレスリリース
■CO₂削減関連技術 276兆6,405億円(19.2倍)
~技術開発、実証を経て2030年頃から普及が加速
●自然吸収型(ブルーカーボン、グリーンカーボン) 201兆9,200億円(29.2倍)
~自治体などによる保全活動主体から民間企業の参入増加により活性化
●炭酸塩化 27兆6,558億円(718.3倍)
~生コンクリートへのCO₂ 固定化製品の需要が増加し拡大する
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 清口 正夫 03-3241-3470)は、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、CO2排出削減努力など従来からの対策に加え、CO2を資源と捉え、燃料や製品への再利用が重要性を増すカーボンリサイクル関連の市場を調査した。その結果を「カーボンリサイクルCO2削減関連技術・材料市場の現状と将来展望 2022」にまとめた。
この調査では、CO2原料ソースやCO2分離技術、CO2分離技術材料、CO2利活用の視点でカーボンリサイクル CO2削減関連技術・材料の市場を分析し、全体像を捉えるとともに2050年までの中長期予測を行った。
なお、本調査の姉妹企画としてCO2利活用に取り組む企業の動向をまとめた「CO2利活用ビジネスにおけるグローバル市場の現状と将来展望2021」の調査結果は2021年9月15日に発表した。
◆調査結果の概要
■カーボンリサイクルの世界市場
|
2022年見込 |
2021年比 |
2050年予測 |
2021年比 |
CO2分離技術(装置型) |
1,030億円 |
101.0% |
8,067億円 |
7.9倍 |
CO2分離技術(自然吸収型) |
7兆8,440億円 |
113.6% |
201兆9,200億円 |
29.2倍 |
CO₂分離技術材料 |
4,931億円 |
104.4% |
2兆7,223億円 |
5.8倍 |
CO₂利活用製品 |
9兆3,866億円 |
136.0% |
71兆1,915億円 |
10.3倍 |
合計 |
17兆8,267億円 |
124.0% |
276兆6,405億円 |
19.2倍 |
2050年のカーボンニュートラル目標達成に向けて世界的にカーボンリサイクルの取り組みが進展し、2050年の市場は2021年比19.2倍の276兆6,405億円が予測される。2022年時点ではCO2分離技術(自然吸収型)とCO2利活用製品の規模が大きく、CO2分離技術(装置型)とCO2分離技術材料は技術が確立し普及が進む2030年以降に大きく伸長するとみられる。
CO2分離技術(装置型)は、化学吸収や物理吸収、膜分離、DAC(Direct Air Capture)などがある。今後普及が進む化学吸収や物理吸収に加え、CO2を大気から回収するDACが近年欧米で大型DAC装置の建設プロジェクトが増加しているため、2050年に向けて大幅な伸長が予想される。
国内では2022年時点で化学吸収が主体であり、その他の技術は開発や実証段階にある。2030年以降に物理吸収や固体吸収/固体吸着のCO2回収商用装置の設置数が増加し、市場が本格化するとみられる。また、政府主導のDAC開発プロジェクトにより、2050年頃にはDAC装置の導入が増加すると想定される。
CO2分離技術(自然吸収型)は近年ネガティブエミッション技術、またCO2クレジットの創出方法として注目されている。グリーンカーボンとブルーカーボンに大別され、グリーンカーボンは大気中から取り込まれ、陸上の植物中に固定されている炭素、ブルーカーボンは海洋生物の作用によって大気中から海中に吸収された炭素を指す。既にCO2吸収量算定方法が確立されたグリーンカーボンの市場が先行しており、今後はブルーカーボンもCO2吸収量算定方法が確立されカーボンクレジット申請目的の参入が増加することで拡大していくとみられる。
CO2分離技術材料はCO2分離技術(装置型)に用いられる材料を対象としている。市場は膜分離に用いる高分子膜が70%強を占める。ほとんどの品目はCO2分離技術(装置型)の伸びに連動して、2030年以降拡大していくとみられる。特に、化学吸収に用いる化学(CO₂)吸収液はCO2分離回収装置の大型化により使用量が増加するため、2050年には市場の40%程度を占めるとみられる。
CO2利活用製品は既に商用化されている尿素が90%弱を占める。主に肥料向けに供給され、ロシアやアジア、アフリカ圏の農業作物生産増加に伴って需要が増加している。2030年から2050年にかけては炭酸塩化やe-Fuelが伸び、2050年の市場は2021年比で10倍以上が予測される。
国内では尿素に加え、液化炭酸ガス・ドライアイスが主体であるが、将来的には炭酸塩化や合成ガス化などの市場が形成され拡大していくとみられる。
■CO2発生量削減と分離、利活用の状況【世界】
|
2030年予測 |
2050年予測 |
CO2発生量 |
100.0% |
62.4% |
※2030年予測を基準値とした
|
2030年予測 |
2050年予測 |
CO2分離率 |
2.2% |
37.1% |
CO2利活用率 |
0.8% |
17.0% |
CO2発生量の予測から2050年のCO₂削減状況を算出した。世界のCO2発生量は、各国の排出量削減やカーボンニュートラルに向けた取り組みによって2030年をピークに減少していき、2050年のCO2発生量は2030年比で60%強まで減少すると予想される。
CO2分離率はCO2発生量に占めるDACと自然吸収型以外のCO2分離技術を用いて分離した量の比率、CO2利活用率はCO2発生量に占めるCO2利活用量の比率である。CO2分離率やCO2利活用率は、2030年ごろまでは技術開発や実証から商用化へ徐々に移行するため増加は緩やかであり、CO2分離率は3%未満、CO2利活用率は1%未満とみられる。2030年以降は実用化と普及のフェーズとなり大幅な上昇が予想される。
国内では2030年までは実証が中心となるため、CO2分離率・利活用率は緩やかな増加であり、2030年時点では共に1%未満と予測される。CO2利活用は2030年ごろまでは既存市場のガス・ドライアイスとしての利用に加えて炭酸塩化の利用量が増えていき、それ以降はメタンやメタノール、e-Fuel、その他製品が伸びるため利活用率が高まっていくとみられる。
◆注目市場
●CO2分離技術(自然吸収型)
2022年見込 |
2021年比 |
2050年予測 |
2021年比 |
7兆8,440億円 |
113.6% |
201兆9,200億円 |
29.2倍 |
植物や海洋によって吸収されるCO2を「自然吸収型」とし、市場はグリーンカーボンとブルーカーボンに大別される。促進の手段としてグリーンカーボンは植林や再造林などがあり、ブルーカーボンはマングローブの植林や藻場の造成・保護などがある。グリーンカーボンは植林・再造林造成の費用、ブルーカーボンは吸収源造成の費用から市場を算出した。
グリーンカーボンは製紙企業や製材企業が中心となって植林や再生林を推進している。普及には民間企業がカーボンクレジットを目的として幅広く参画することが不可欠であるが、クレジット申請のために継続的な森林の維持やモニタリングを行う必要があり、ハードルが高いことが障壁となっている。今後、条件の簡略化などでカーボンクレジット目的の参入が促進されるとことが期待される。
国内では森林の高齢化でCO2吸収能力が下がっているため、再造林が必要となっている。また現在成長が早く従来の1.5倍以上のCO2吸収量を有するエリートツリーの研究開発が行われており、2050年までには再造林の90%以上をエリートツリーにすることを目指している。
ブルーカーボンは、国内では一部地域でアマモの保全活動が行われており、海外ではマングローブの植林が主体となっている。国内では自治体やNPO法人による保全活動が中心であったが、将来的な拡大には民間企業の参入による市場の活性化が求められる。多くの国においてCO2吸収・固定量の算定手法やモニタリング手法は未確立であり、2030年頃に算定手法が確立され、カーボンクレジットの申請をしやすい環境が整うことが予想される。今後、造成プロセスの高効率化で面積当たりの単価は減少するが、造成地が増加することで市場拡大が予想される。また、現状グリーンカーボンでは植林した樹木を木材や製紙として販売することができる一方、ブルーカーボンは海草藻場やマングローブのなどから創出される製品が存在しないため、民間の参入促進にはブルーカーボン由来の新産業の創出に取り組む必要がある。
●炭酸塩化【CO2利活用製品】
2022年見込 |
2021年比 |
2050年予測 |
2021年比 |
468億円 |
121.6% |
27兆6,558億円 |
718.3倍 |
カルシウムやマグネシウムといったアルカリ性の金属イオンを含む素材と、CO2を反応させて炭酸塩を生成し、CO2固定化させたものを指す。ここではコンクリートを被CO2固定材料とした炭酸塩化を対象とし、市場はCO2を固定化したコンクリートの出荷額から算出した。
2022年時点では、CO2固定化は生コンクリートを主体として、欧米を中心に市場が確立されている。2025年頃までは生コンクリートへのCO2固定化製品の低価格化が進行し、需要が増加すると予想される。2030年頃からは生コンクリートに加え、プレキャストコンクリートや廃コンクリートへの固定化も普及するとみられる。製品の用途が建築・インフラであるため、安定的な需要があり、各国の経済成長に合わせて需要が高まっていくと予想される。
生コンクリートは、CO2固定化により強度が増し使用するセメントの量が減るため、コストダウンが可能である。また価格面でも特定技術の導入により既存の生コンクリートと同等の価格での販売が可能とされ、価格競争力を有しつつある。課題としては、CO2を取り込むことでコンクリートがアルカリ性から中性になり、内部が酸化するため鉄筋が腐食することから、鉄筋コンクリートとして使用できないことが挙げられる。現在これを解決する製造技術が開発され、実証が始まっている。
国内では2025年以降に生コンクリートとプレキャストコンクリートへのCO2固定化技術が普及して市場が形成されるとみられる。プレキャストコンクリートは価格の高さが課題であるが、炭素税など脱炭素技術の導入を優遇する政策が開始されることで需要増加が期待される。また、2030年以降は使い勝手の良い生コンクリートへのCO2固定化が主流になるとみられる。
●CCS【CO2利活用製品】
2022年見込 |
2021年比 |
2050年予測 |
2021年比 |
198億円 |
180.0% |
4,830億円 |
43.9倍 |
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は従来大気中に放出されていた排ガス中のCO2を分離・回収し地中に貯留する技術である。市場は貯留プラントの材料費施工費一式の価格から算出した。
技術的には1990年代に確立されたが、2050年のカーボンニュートラル目標の設定をきっかけに、2018年以降CCSの施設数やCO2回収貯蔵量が増加している。北米や欧州で先行して市場が形成されており、2020年代の半ばまでは、税額控除や補助金によりCCSプロジェクトが推進されていくとみられる。
中長期的には、補助金に依拠しないビジネスモデルの確立が求められる。2030年頃には炭素税の導入などにより、CO2排出削減の利点が向上していき、エネルギー関連企業によるCCS活動が促進されるほか、ブルーアンモニアやブルー水素の需要増加も拡大要因となって、2050年の市場は4,830億円が見込まれる。
●化学吸収【CO2分離技術】
2022年見込 |
2021年比 |
2050年予測 |
2021年比 |
226億円 |
99.1% |
3,340億円 |
14.6倍 |
化学吸収はCO2吸収液の化学反応を利用してCO2を分離する技術であり、この市場では各種吸収液を採用した化学吸収法CO2分離・回収プラントを対象とする。市場はCO2分離回収プラントの建設費から算出した。
技術としては既に成熟しており、天然ガス、アンモニアの脱炭酸工程でのCO2回収に化学吸収が活用されるのが一般的である。国内では、アンモニアの脱炭酸工程や石油精製の不純物除去工程で導入されている。
技術革新によってコストダウンが実現し、プラント1基あたりの建設費が下落するため、2025年頃までは市場は微減が続くとみられる。2030年以降、従来導入されてきた小型CO2回収装置だけではなく、発電所などでコストパフォーマンスの高い大型CO2回収装置の導入が増加する。大型化で1基あたりの単価が上昇するため市場は拡大し、化学吸収によるCO2分離量も大幅に増加すると想定される。
◆調査対象
CO2原料ソース |
|
|
|
|
・発電所 |
・セメント |
・石油精製 |
・バイオガス |
|
・鉄鋼 |
・天然ガス |
・アンモニア |
・輸送 |
|
CO2分離技術 |
|
|
|
|
・化学吸収 |
・物理吸着 |
・固体吸収/固体吸着 |
・DAC(Direct Air Capture) |
・自然吸収型(グリーン/ブルーカーボン) |
・物理吸収 |
・膜分離 |
・深冷分離 |
||
CO2分離技術材料 |
|
|
|
|
・化学吸収液 |
・ゼオライト |
・その他吸着材 |
・その他膜 |
|
・物理吸収液 |
・活性炭 |
・高分子膜 |
・PCP/MOF |
|
CO2利活用製品 |
|
|
|
|
・CCS |
・温室栽培 |
・ポリカーボネート |
・メタン |
・合成ガス化 |
・EOR |
・尿素 |
・エチレングリコール |
・メタノール |
・人工光合成 |
・液化炭酸ガス・ |
・ポリウレタン |
・その他化学品 |
・その他燃料(e-Fuel) |
・炭素変換 |
ドライアイス |
および中間原料 |
・炭酸塩化 |
・藻類利用(油、肥料、飼料など) |
※網掛けの品目は世界市場のみ提示