PRESSRELEASE プレスリリース

第19017号

自動車、航空機、建築・土木用途が注目
拡大する炭素繊維複合材料の世界市場を調査
−2030年世界市場予測(2017年比)−
PAN系炭素繊維複合材料(CFRP/CFRTP)3兆5,800億円(2.6倍)

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 清口正夫 代表取締役)は、軽量・高強度といった基本特性の高さが評価され、航空機や自動車などをはじめ各種産業界で採用が増加し、拡大が期待されるPAN系炭素繊維複合材料(CFRP/CFRTP)の世界市場を調査した。その結果を「炭素繊維複合材料(CFRP/CFRTP)関連技術・用途市場の展望 2019」にまとめた。

この調査では、炭素繊維、中間基材、接着剤などのキーマテリアル/関連部品・装置の市場動向についても、用途別の市場動向や主要企業の動向を調査・分析した。

◆調査結果の概要

PAN系炭素繊維複合材料(CFRP/CFRTP)の世界市場



※端材利用…端材利用CFRP/CFRTP。加工時に発生する端材を利用したリサイクルPAN系炭素繊維複合材料。

CFRPは、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂のマトリクス樹脂を炭素繊維に含浸・硬化させた材料である。2018年の市場は1兆3,656億円が見込まれ、2030年は3兆2,018億円が予測される。

用途別にみると、航空機、風力発電ブレード、自動車、スポーツ・レジャー用途が中心となっている。特に風力発電ブレードの需要が増加している。風力発電ブレードは、欧州、中国において洋上風力発電プロジェクトが進行しており、洋上風車で用いられる5MWから10MWクラスの大型ブレードの軽量化を図るためにCFRPの採用が有力視されていることで、今後の伸びが期待される。自動車用途は自動車メーカー各社がCFRP利用技術の研究開発を進めている。現在は欧州メーカーによる開発・採用が先行しているが、政策の後押しや電動自動車市場の拡大に伴う軽量化ニーズの増加から中国自動車メーカーによる採用が予想される。航空機用途は、計画生産体制が組まれているため安定的に伸びるとみられる。2025年前後にはAirbusやBoeingなどが、生産数が多い小型機種の次期モデルの生産を開始する計画であり、それらでCFRPの採用率が高まることで、さらなる需要増加が期待される。水素タンクなどの圧力容器用途は、FCVやCNG車の市場に連動した成長が予想される。FCVについては中国でトラック、バス向けの需要が増加している。建築・土木用途は、中国の建造物や橋脚などをはじめとする補強材として需要が増加している。

CFRTPは、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を使用した炭素繊維複合材料である。CFRPで課題となっている成形加工時間を大幅に短縮することが可能であることから注目されている。短/長繊維の加工品と連続繊維の加工品があり、短/長繊維の加工品は現状、ATMなどの機器の静電部品、自動車のギアや製造ラインなどの軸受のような摺動部品、掃除機やエアコン、カメラなどの家電・OA製品の部品、自動車のフレーム部品などで採用されている。今後は、自動運転の普及に伴い車載センシングカメラなどで電磁波シールド対策部品としての採用が想定されており、需要が増加するとみられる。連続繊維の加工品は現状、航空機用途における限定的な採用となっているが、2025年から2030年にかけて自動車用途における骨格・構造部品での採用が有力視されており需要の増加が期待される。

端材利用CFRP/CFRTPは、加工時に発生する端材を利用したリサイクルPAN系炭素繊維複合材料である。現状は、静電対策用ICトレーや自動車用途で採用されている。自動車用途では、端材利用のニーズが高くリサイクル技術の確立は必須とみられており、品質の安定化に向けた技術開発が行われている。航空機用途では、Airbusが2025年にかけて航空機の各種加工工程において発生した端材の95%をリサイクル市場へ流通させ、内5%を航空機部品で再利用する目標を掲げている。

◆注目用途市場

2018年見込
2017年比
2030年予測
2017年比
自動車
974億円
98.0%
5,605億円
5.6倍
航空機
5,803億円
100.5%
1兆4,261億円
2.5倍
建築・土木
1,935億円
102.8%
5,469億円
2.9倍

自動車用途は、自動運転関連技術の開発に自動車業界が注力していることからCFRP/CFRTP採用計画が先延ばしとなっている。そのため、2020年までは大幅な採用モデルの増加は期待できないが、2025年頃にはCFRP/CFRTPの利用技術が向上し、量産モデルへの採用増加が予想される。また、電動自動車普及に伴う需要に加え、準高級車クラスでも燃費向上を目的に採用が徐々に増加するとみられる。主要自動車メーカーでは開発コスト削減のため車体プラットフォームを共通化させていく方針のため、採用が始まれば急激な需要増加が予想される。長期的には、端材利用CFRP/CFRTPの市場も拡大するとみられ、2030年には5,605億円(2017年比5.6倍)が予測される。

航空機用途は、加工性よりも品質を重視した材料選定が一般的であり、信頼性の高いプリプレグ成形加工品の採用が主流である。CFRPは一次構造材をはじめ二次構造材、内装材、ヘリコプター、軍事機等の幅広い用途で採用されている。CFRTPはエンジンなどの耐熱部品や小型の一次構造材部品で採用されている。

市場は、Airbus「A350 XWB」やBoeing「787」といった炭素繊維複合材料比率が50%程度の機体の増産や新型エンジンにおける採用増加で拡大している。今後、短・中期的には、新たに就航予定の大型機に加え、Boeing「797」などのシングルアイル機体、リージョナル/ビジネスジェットの生産が本格化する見通しで需要が増加するとみられる。長期的には、BoeingやAirbusにおいて前継機よりも炭素繊維使用量を増加させた機体の生産が開始されるとみられ、市場の拡大が予想される。端材利用CFRP/CFRTPの市場は、現状、BoeingのecoDemonstrator事業において、「787」の生産工程において発生した端材が「757」のフライトデックや「787」のドア部品に試験的に再利用された事例があるが、限定的な取り組みとなっている。今後は、Airbusが2020年から2025年にかけて生産工程で発生したCFRP端材の95%をリサイクル産業に流通させその内5%を航空機部品で採用することを計画しており、2025年前後に市場が本格的に形成されるとみられる。

建築・土木用途は、コンクリートや鉄筋等の骨格構造の強度を増強する補修・補強材として利用されることが多い。材料費用が高いことや法整備の遅れから、骨格構造本体に利用される場合は少ない。そのため、新築建造物への採用は限定的であり、一部のデザイン性の高い建築物に採用がみられる程度である。
市場は、日本や欧米において老朽化インフラや耐震補強に対する規制強化に伴い、需要が増加している。近年は、中国や新興国におけるインフラ整備の需要も増加している。今後は、老朽化インフラの補修・補強需要が増加する中国をはじめとした新興国、デザイン性の高い新築建造物向け建築資材の需要が増加している欧米を中心に市場が拡大すると予想される。

◆注目キーマテリアル/関連部品・装置

1.PAN系炭素繊維の世界市場

2018年見込
2017年比
2030年予測
2017年比
市場規模
1,981億円
106.5%
4,916億円
2.6倍

市場は、現状CFRP向けが中心となっており、CFRTP向けは5%程度にとどまっている。今後、CFRP向けは安定して伸びていくとみられる。CFRTP向けは、2025年以降自動車用途で需要が増加するとみられ、2030年には、市場の12%程度を占めるまでに拡大すると予想される。

2.加工装置・ツール市場

2018年見込
2017年比
2030年予測
2017年比
市場規模
694億円
102.4%
1,732億円
2.6倍

自動積層装置、CFRP/CFRTP用成形加工装置、2次加工装置(ウォータージェット・ドリル・エンドミル)を対象とした。市場は、大型案件の有無によって変動する。現状、それぞれの装置でCFRP用途の割合が大きい。成形加工装置では、航空機や自動車用途で多く採用されるオートクレーブ、HP-RTM装置等の大型装置の採用が多い。2030年に向けて、CFRP用成形加工装置では航空機や自動車、CFRTP用成形加工装置では自動車向けの設備投資がけん引役となると予想される。

◆調査対象

品目 PAN系炭素繊維(レギュラートウ、ラージトウ)、マトリクス樹脂/添加剤(PES)、中間基材(プリプレグ・ペレット/シート・ラミネート)、CFRP、CFRTP、接着剤、工程紙・フィルム、端材利用CFRP/CFRTP、自動積層装置、TFP(Tailored Fiber Placement)装置、CFRP/CFRTP用成形加工装置、ウォータージェット、ドリル・エンドミル、非破壊検査装置、CFRTP加熱装置、異種材接合、コア材、ピッチ系炭素繊維、ガラス繊維複合材料(連続繊維)、セルロースナノファイバー
用途 自動車(車両骨格・構造部品/外板・外装部品他)、航空機、圧力容器(高圧水素タンク/CNGタンク)、風力発電ブレード、建築・土木、スポーツ・レジャー、静電部品・摺動部品、その他注目用途(船舶、油田掘削・搬送、ドローン、鉄道、医療機器、冶具、家電・OA製品)
企業事例 ユーザー(自動車メーカー) 、ユーザー(航空機メーカー)

※一部の数字は四捨五入しています。このため合計と一致しない場合があります。


2019/03/07
上記の内容は弊社独自調査の結果に基づきます。 また、内容は予告なく変更される場合があります。 上記レポートのご購入および内容に関するご質問はお問い合わせフォームをご利用ください、 報道関係者の方は富士経済グループ本社 広報部(TEL 03-3241-3473)までご連絡をお願いいたします。