PRESSRELEASE プレスリリース
肺がん、腎がん、皮膚がん、大腸がんなどの抗がん剤の市場を調査
肺がん領域の抗がん剤 3,175億円(10.5%増)
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 清口正夫 代表取締役)は、多くの製薬企業が開発ターゲットとして注力している抗がん剤の市場を調査した。その結果を「2018‐2019 医療用医薬品データブック No.5」にまとめた。
この調査では、抗がん剤(15品目)のほか、抗がん剤関連用剤(4品目)の市場を調査した。また、がん領域における注目カテゴリー(免疫チェックポイント阻害剤、クリニカルシーケンスの動向)について分析した。
◆注目市場
1.肺がん領域の抗がん剤
2014年に第二世代のEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤「ジオトリフ」(日本ベーリンガーインゲルハイム)が発売され、2016年に第三世代のEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤「タグリッソ」(アストラゼネカ)のほか、「ザーコリ」(ファイザー)、「アレセンサ」(中外製薬)といったALK阻害剤も発売され、これら分子標的治療剤の伸長とともに市場は拡大した。また、2015年12月に免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」(小野薬品工業)が非小細胞肺がんの適応拡大を取得したことも寄与した。
2017年は2月に「オプジーボ」が薬価を50%引き下げられたものの、2剤目となる免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」(MSD)が発売されたこと、また、分子標的治療剤の「アレセンサ」、「サイラムザ」(日本イーライリリー)などの好調もあり、市場は拡大した。
2018年は免疫チェックポイント阻害剤で3剤目となる抗PD-L1抗体「テセントリク」(中外製薬)が4月に発売され治療選択肢が広がったことや、「タグリッソ」がEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの適応拡大を取得し、ファーストライン(第一選択薬)となったことで市場は拡大した。
2019年は「キイトルーダ」などの続伸に加え、非小細胞肺がんのステージIIIで標準療法の放射線と抗がん剤の併用療法後の維持療法に適応する「イミフィンジ」(アストラゼネカ)が8月に発売され、新たな治療選択肢として需要を高めており、市場拡大が予想される。今後は高薬価が指摘されている免疫チェックポイント阻害剤の段階的な薬価引き下げが予想されることや、現状の治療を変えるほどの新薬の開発品も見当たらないことから、市場は徐々に縮小に転じるとみられる。
2.腎がん領域の抗がん剤
2019年見込 |
2018年比 |
2027年予測 |
2018年比 |
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市場規模 |
591億円 |
102.2% |
634億円 |
109.7% |
腎がんの薬物療法はサイトカイン療法が一般的であったが、2008年に腎細胞がんにおける分子標的治療剤「ネクサバール」(バイエル薬品)、「スーテント」(ファイザー)が発売され、その後も断続的に分子標的治療剤が発売されたことで市場は活性化し拡大している。
2016年は8月に「オプジーボ」が根治切除不能または転移性の腎細胞がんの適応を取得したことで、新たに免疫チェックポイント阻害剤が治療の選択肢に加わり市場は拡大した。
2018年の8月には免疫チェックポイント阻害剤「ヤーボイ」(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)が腎細胞がんの適応を取得し、ファーストラインで「オプジーボ」との併用療法が可能となっており、治療の選択肢がさらに増えたことで市場は拡大した。
2019年以降は免疫チェックポイント阻害剤や分子標的治療剤の開発品が複数あることから、市場のさらなる活性化が期待される。ただし、今後は免疫チェックポイント阻害剤の薬価引き下げが想定されることから、市場は2022年にピークを迎え徐々に縮小していくとみられる。
3.皮膚がん領域の抗がん剤
2019年見込 |
2018年比 |
2027年予測 |
2018年比 |
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市場規模 |
157億円 |
121.7% |
256億円 |
198.4% |
皮膚がんの市場は、化学療法の「ダカルバジン」(協和キリン)が唯一の選択肢として処方されており限定的であった。しかし、2014年9月に「オプジーボ」が発売され市場は拡大した。さらに2015年2月に分子標的治療剤「ゼルボラフ」(中外製薬)、同年5月に「タフィンラー」「メキニスト」(ともにノバルティス ファーマ)、同年9月に「ヤーボイ」、2017年2月に「キイトルーダ」と新製品が相次いで発売され、治療選択肢が増えたことで市場は活性化し拡大している。
2019年は小野薬品工業が分子標的治療剤の「ビラフトビ」「メクトビ」を発売し、さらに治療選択肢が増え市場の拡大が予想される。2021年頃からは、現在開発中の免疫チェックポイント阻害剤、分子標的治療剤が段階的に発売されるとみられ、薬価引き下げが想定されるものの、市場は拡大していくとみられる。
4.子宮がん、卵巣がん、その他女性関連がん領域の抗がん剤
2019年見込 |
2018年比 |
2027年予測 |
2018年比 |
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市場規模 |
182億円 |
103.4% |
347億円 |
197.2% |
子宮がん、卵巣がん、その他女性関連がんは外科的療法や放射線治療が主流であることに加え、薬物療法としてもカルボプラチンやパクリタキセル、シスプラチンといった古くからある薬剤の処方が中心であることからジェネリック医薬品や薬価引き下げの影響を受けて市場は縮小していた。
しかし、2018年4月に分子標的治療剤「リムパーザ」(アストラゼネカ)が発売され、その伸びによって市場は拡大に転じている。今後は、「オプジーボ」や「キイトルーダ」などの免疫チェックポイント阻害剤が卵巣がんや子宮体がんへの適応拡大に向け開発が進められており、市場の拡大が期待される。
◆調査結果の概要
抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)、抗がん剤関連用剤
※免疫チェックポイント阻害剤は抗がん剤の内数
抗がん剤の市場は、高齢化による患者の増加や2014年に免疫チェックポイント阻害剤が登場したことで拡大している。今後も肺がん、腎がん、など多くが伸びるとみられ市場の拡大に寄与するとみられる。
免疫チェックポイント阻害剤は抗PD-1抗体「オプジーボ」および「キイトルーダ」が市場をけん引しており、特に肺がん領域で高い実績をあげている。今後は、様々ながん種への適応拡大の開発が進められており市場の拡大が期待される。
抗がん剤関連用剤市場は、2018年は主力であるCSFがバイオシミラーの発売によって縮小し、制吐剤やがん疼痛治療剤はけん引していた薬剤の成長が落ち着いたため伸びが緩やかになっている。今後はがん副作用治療剤やがん関連症状緩和剤が新製品の発売によって大きく伸びるとみられる。
◆調査対象
抗がん剤 | 肺がん、胃・食道がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、その他女性関連がん、前立腺がん、肝がん、頭頸部がん、腎がん、皮膚がん、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、その他血液がん、その他固形がん |
抗がん剤関連用剤 | CSF、制吐剤、がん疼痛治療剤、がん副作用治療剤・がん関連症状緩和剤 |
がん領域における注目カテゴリー分析 | 免疫チェックポイント阻害剤(再掲)、クリニカルシーケンスの動向 |
※一部の数字は四捨五入しています。このため合計と一致しない場合があります。