PRESSRELEASE プレスリリース
◆水素ガスの世界市場 53兆8,297億円(2.1倍)
…低炭素水素が主流となり、燃料電池車や発電設備向けが増加
◆水素ステーションの国内市場 1,756億円(76.3倍)
…水素調達コストが低減して設置数が増加。水素STは自立化へ
■水素関連(水素ガス、関連機器)の世界市場 90兆7,080億円(3.5倍)
…燃料電池車や発電設備向けで需要増加が期待される水素ガスが市場拡大をけん引
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、カーボンニュートラル(以下CN)実現に寄与する技術として注目され、水素利用に求められるインフラ、アプリケーション開発が活発化している水素関連の世界市場を調査した。その結果を「2023年版 水素利用市場の将来展望」にまとめた。
この調査では、水素ガスに加え、水素アプリケーション、水素製造、水素輸送、水素ステーション(以下水素ST)、車載用水素関連機器の市場の現状を分析し、将来を展望した。また、各国の水素政策、企業動向なども捉えた。
◆注目市場
●水素ガスの世界市場
燃料電池車燃料や発電設備燃料、また、産業原料・工業ガスとして利用される水素ガスを対象とする。
水素ガスの市場は2022年度に前年比プラスの9,726万トンが見込まれる。現時点では産業原料・工業ガス向けが大部分を占め、燃料電池車向けはごく一部である。2040年度には2億1,783万トンに拡大すると予想される。今後は燃料電池車向けが徐々に増加し、2030年度以降は発電設備向けが伸びて、市場拡大を後押しするとみられる。また、水素品質はCN実現に向けて低炭素水素が主流になるとみられるが、一方で低炭素水素供給にはまだ課題が多く、低コスト化や供給能力増大、輸送インフラ建設に加え、制度設計など、多額の投資が必要になるとみられる。
国内の水素利用は、FCVなどの燃料電池車のほか、発電設備燃料として水素混焼、アンモニア混焼が注目されており、2022年度は151万トンが見込まれる。「グリーン成長戦略」では2030年に300万トン、2050年に2,000万トンを目標としている。2030年までにガス火力で30%水素混焼、石炭火力で20%アンモニア混焼の実現が掲げられており、混焼設備の拡充や専焼設備の導入が推進により、水素需要の増加が期待される。また、2030年に向けて、国際水素サプライチェーンの確立によって水素調達力を増強する方向にあり、中東や北米、オーストラリアなどからブルーアンモニア、ブルー水素の輸入が予想される。
●水素ステーションの国内市場
水素ステーションはFCVやFCバス、FCトラック用のほかに、小規模(50N m3/h 以下)な商用水素STを含めた商用水素ST、公用車・社用車・FCFL・その他産業車両への水素充填を目的として事業所に設置される小型水素ST、ロードサービスやカーディーラーなどで水素燃料の充填を行うためのモバイルディスペンサ(緊急用水素ST)を対象とする。
商用水素STは2021年度にFCVの販売が減少したことなどから市場は縮小した。2021年6月に開かれた政府の成長戦略会議にて、2030年度における商用水素ST整備数目標が1,000件と発表されている。今後、商用車に対応可能な大規模水素STの設置数が増加し、4大都市圏を中心とした地域や都市間の幹線沿いへの整備が進むとみられる。また、2022年度から小規模商用水素ST(50Nm3/h 以下)に対して補助金の交付が認められ、比較的低コストで新設しやすいことから設置増加が予想される。2030年度以降は水素ガスパイプラインや液化水素による大量輸送など供給インフラの構築により、運搬コスト削減による水素調達コストの低減が期待される。水素ST数増加による利便性の向上によりFCVの普及拡大も想定されるため、稼働率向上から2030年代での水素ST自立化が予想される。
小型水素STは環境省補助事業により施設の建設が進んだが、2021年度から補助事業が廃止され、工場の新規案件は減少した。現在は自治体が主導する実証試験での導入が一般的であり、水素ガスと簡易充填機を搭載した水素トレーラーが工業団地を巡回して水素を充填してFCFL(燃料電池フォークリフト)に水素充填する移動式システムが採用されている。工業団地など複数の事業所が密集しているエリアにおいては、水素STの建設費用を抑えてFCFLの導入が可能となることから、自治体の普及促進事業として実施されている。トラックなどの大型のモビリティにおいてはバッテリー駆動よりも、水素利用の方が航続距離や水素充填時間においてメリットがあるとされることから、2030年度以降は大型モビリティ向けの供給設備への需要が増加するとみられる。さらに、将来的には水電解型水素製造装置の価格も現状の半分ほどになることが想定されるため、工場や施設での余剰再エネの貯蔵や緊急時の発電など、業種を問わず幅広い用途で小型水素STが導入されていくことが期待される。
緊急用水素STは、FCVへの燃料充填は「第一種製造者の事業所内または、あらかじめ都道府県知事に届け出た場所で充填すること」と定められており、路上などの不特定場所での燃料充填は認められないため、商用水素STから遠い場所での燃料切れに対応するためにカーディーラーやロードサービス事業者などで導入がみられる。今後はFCVの普及が加速するため、配備がさらに進んでいくと予想される。
◆調査結果の概要
●水素関連(水素ガス、関連機器)の世界市場
2022年度見込 |
2021年度比 |
2040年度予測 |
2021年度比 |
45兆5,490億円 |
173.7% |
90兆7,080億円 |
3.5倍 |
市場は水素ガス、関連機器として水素アプリケーション(燃料電池車、水素ガスタービン発電、アンモニア発電、FC水素発電)、水素製造(改質型水素製造、電解型水素製造)、水素ステーション関連機器(商用、小型、緊急用)を対象とした。
2022年度の市場は45兆5,490億円が見込まれる。水素ガスは大半を占める産業原料・工業ガス向けが増加しており、今後も需要増加が継続するとみられる。また、今後は燃料電池車や発電分野での需要が大きく増加する。燃料電池車向けは2030年度頃までけん引し、以降は発電分野で需要が伸び、2040年度には併せて現在の産業原料・工業ガス向けと同程度の規模まで増加すると予想される。
水素利用はCNに寄与する技術として注目されており、国際的な共通認識では非電化領域の低炭素化を実現する技術と位置付けられている。2050年のネットゼロエミッション実現を前提にしたIEA(国際エネルギー機関)の報告書「Net Zero by 2050」では、低炭素化に必要な水素系燃料含む水素供給量は2050年に5億トン以上と推計されている。
水素需要の拡大と同時にクリーン水素供給を実現することも必須であり、水素製造設備への投資は急増するとみられる。CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術などを活用したブルー水素は、グレー水素に比べて追加コストがかかるが、カーボンプライシングの引き上げにより、競争力をもつとされる。再生可能エネルギーを使って生成するグリーン水素は、安価な再エネが利用できるエリアでの製造が有利である。ブルー水素とグリーン水素は、まだ商業規模では生産されていないが、天然ガス価格の高騰により、グレー水素との価格差は縮まっているとみられる。
◆調査対象
水素ガス |
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・水素ガス |
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水素アプリケーション |
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・産業用水素 |
・アンモニア発電 |
・水素還元製鉄 |
・燃料電池車 |
・FC水素発電 |
・再エネ水素・P2Gシステム |
・水素ガスタービン発電 |
・産業用水素バーナー |
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水素製造 |
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・改質型水素製造 |
・電解型水素製造 |
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水素輸送 |
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・水素輸送(大規模輸送) |
・水素パイプライン |
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水素ステーション関連機器 |
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・商用水素ステーション |
・水素ディスペンサー |
・バルブ |
・小型水素ステーション |
・蓄圧器 |
・水素センサー |
・緊急用水素ステーション |
・オンサイト水素発生装置 |
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・水素コンプレッサー |
・液化水素設備 |
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車載用水素関連機器 |
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・車載用高圧容器 |
・車載用水素センサー |
・水素エンジン |
※網掛けは水素関連(水素ガス・関連機器)市場の対象品目