PRESSRELEASE プレスリリース
■定置用蓄電システム向け蓄電池 13兆7,938億円 (3.8倍) 系統用が市場をけん引
リチウムイオン電池を中心にレドックスフロー電池やナトリウムイオン電池も採用増
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、世界各国で再生可能エネルギーへの転換および脱炭素化への移行が積極的に進められる中、再エネの主力電源化を実現する技術として注目が集まる定置用蓄電システムに搭載される蓄電池の電池種別市場を調査した。その結果を「定置用蓄電池・ESS関連市場の現状と将来展望 2025」にまとめた。
この調査では、住宅、業務・産業、系統/再エネ、UPS/基地局など分野別に定置用蓄電システムに搭載される蓄電池市場の現状を分析し、将来を予測した。市場をけん引するリチウムイオン電池(LiB)については、LFP系/NCM・NCA系といった種類別の分析も行った。また、中国で開発や量産化が加速しているナトリウムイオン電池(SiB)も新たに対象とした。注目度が高まっている長時間の充放電技術により電力バランスを調整する長期エネルギー貯蔵技術(LDES)についても国内外の参入プレーヤーの動向を整理した。
◆注目市場
●系統用蓄電システム向け蓄電池の世界市場

日本では、スタンドアロン型で直接系統連系し、需給調整市場や卸電力市場、容量市場などの各種電力市場で電力を取引、運用して収益を獲得する、蓄電所と呼ばれるビジネスモデルを中心に系統用蓄電システムの導入が急増している。補助金などを活用した案件に加え、システムコストが低下したこと、現状の需給調整市場での高価格応札・約定を受け、補助金を利用せず早期に蓄電所プロジェクトの展開を進める動きが活発化している。2025年から蓄電所の運転開始が相次ぎ、2030年頃まで活況が続くとみられる。
海外では、国家主導で導入目標が示されている中国の市場規模が大きい。欧州では、高い再エネ導入目標とともに、火力発電所の廃炉や縮小を目標として掲げていることから、電力安定供給のために蓄電池の重要性が高まっており伸びている。北米は、電力会社による大型蓄電システム導入などにより需要が増えている。その他のエリアでは、豪州やインドでの導入が多い。
蓄電池市場としては、すべてのエリアでLiBがけん引している。電池種別では、今後もLiBの採用が中心とみられるが、レドックスフロー電池(RF)やSiBなどを採用するプロジェクトも増加するとみられる。SiBは、中国で実証プロジェクトが進められており、2025年にはLFP系LiBとのハイブリッド蓄電システムのプロジェクトもみられた。またレドックスフロー電池は、安全性や長寿命性などが強みであり、中国での導入が盛んであるほか、欧米、米国、豪州でのLiB以外の電池種での公募案件の採用に向けた動きがみられる。
◆調査結果の概要
■定置用蓄電システム向け蓄電池の世界市場

再生可能エネルギーの急増と需給バランスの維持に向け、調整力としての導入が世界的に進んでおり、2025年の市場は5兆246億円が見込まれる。EV販売の停滞からxEV向けを想定していたLiBを廉価に蓄電システム向けに供給するケースなどがみられたことや、中国電池メーカーによる比較的安価なLFP系を正極活物質に採用したLiBの供給量増加などからコストの低下が進んでいる。日本でもLFP系LiBの比率が高まっているほか、NCM系が主力の韓国電池メーカーもLFP系LiBの開発を進めている。また、2025年からの米国での相互関税の導入により、中国製LiBセルへの課税が強化されるため、中国や韓国の大手電池メーカーによるLFP系LiBの米国での生産が進むとみられる。
今後は、xEVの普及による車載電池の量産化に伴う、共通部材や周辺部材などのLiB調達コストの低下により低価格化が進展し、2045年の市場は13兆7,938億円が予測される。電池種別にはLiBが中心であることは変わらないものの低価格化の進展もあり比率は低下するとみられる。また、RFやSiBの採用が増えていき、RFは2割弱、SiBは1割強を占めると予想される。
■分野別動向
■住宅分野■

住宅用蓄電システムとしては、日本においては新築・既築住宅ともに、太陽光パネルとのセット導入が増加している。また、2026年には需給調整市場における低圧リソースの取引が解禁されDR/VPPリソースとしての活用拡大が期待されるほか、2027年よりZEH基準の要件に蓄電システムの設置が追加される予定のため、新築住宅における導入率上昇が予想され、堅調な市場拡大が予想される。海外で導入が進んでいるのは欧州であり、ドイツ、イタリア、英国、オーストリアがけん引している。一方で、中国は導入が進んでいない。
蓄電池市場としては、LiBが大部分を占めている。欧州では少量だがSiBの採用もみられ今後徐々に増加していくと予想される。市場全体としては、容量ベースでは拡大が続くものの、LiBの価格低下の進展や搭載容量は微増もしくは横ばいにとどまることから、金額ベースでの市場は2030年頃がピークになるとみられる。
■業務・産業分野■

業務産業用蓄電システムとしては、レジリエンス・BCP対策といった非常用電源ニーズ、電気代上昇による自家消費ニーズの高まりなどから世界的に導入が増加している。日本では、300kWh未満のシステムでは自治体施設や文教施設での導入が多く、300kWh以上のシステムでは、民間企業のほか、自治体・公共施設でも各種補助金制度の創設により導入が進んでいる。さらに2026年度より工場や物流施設など産業施設における太陽光発電システムの設置を義務付ける動きもみられることから、蓄電システムの導入機運も広がると期待される。なお、海外では、北米や中国で導入が進んでいる。
蓄電池市場としては、LiBが大部分を占めており、鉛電池(Pb)は採用が縮小しているが安価なため新興国を中心に底堅いニーズがみられる。長期的にLiBが中心であるが、300kWh未満のシステムではSiBが一定規模を占めるとみられる。300kWh以上のシステムでは、SiBのほか、NAS電池(NAS)やRFなどの採用も増えると予想される。
■系統/再エネ併設分野■

系統/再エネ併設蓄電システムは、各国での電力市場制度の整備により、系統用蓄電システムの需要が高まっているため、異業種参入が相次ぎ急速に市場が拡大している。また、再エネの導入量拡大・電力需要の増加に伴い、短・長周期ともに調整力需要が顕在化し、大幅な導入増加が予想される。
このうち、再エネ(太陽光・風力)併設用蓄電システムでは、日本は、太陽光発電所の運用における出力抑制対策や収益性向上の観点から、FIT認定からFIP認定への移行と共に蓄電システムを併設するケースが増加している。また長期的には洋上風力発電所案件の立ち上がりに伴う併設蓄電システムの導入増加や、再エネの導入量拡大に伴う調整力/系統混雑緩和ニーズの高まりなどで、導入増加が予想される。海外では、中国は大型プロジェクトの運転開始や、2023年、2024年までの稼働が予定されていたプロジェクトのずれ込みなどから需要が集中し、2025年の導入が大きく伸びるとみられる。また、米国では、ITC(投資税額控除)などが後押しとなり導入が進んでいるほか、太陽光発電の設備容量の増加に伴い出力抑制も増えており、蓄電システムの併設へ積極的な転換もみられる。欧州でも再エネの導入目標に基づき蓄電池の導入ニーズも高まっており、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ルーマニア、ポーランドなどでの増加が予想される。
蓄電池市場としては、LiBが大部分を占めている。長期的にはLiBが中心であることは変わらないものの、SiBやRFなどの採用も増えると予想される。また、再エネ(太陽光・風力)併設用蓄電システム向けでは、導入実績が増加し信頼性や安全性の高さから更新案件も増加しているNASも増加が予想されるほか、Pbも根強い需要が続くとみられる。
■UPS/基地局分野■

UPS/基地局向け蓄電システムとしては、クラウドサービス/デジタル化/AI技術の進展、5Gネットワークの構築などに伴い、データセンター 向けUPSの需要が旺盛であり、今後は5G、6G基地局の建設投資の拡大とともに、バックアップ電源需要の伸びが予想される。
蓄電池市場としては、価格や実績の面からPbが安定した需要があり、今後もPbが中心とみられる。海外では中・大容量UPSでLiBの採用事例も増えつつあり、無線基地局用バックアップ電源装置でもLFP系を中心にスモールセル基地局向けに採用が増加していくと予想される。
◆調査対象
アプリケーション市場住宅分野
・住宅用蓄電システム
業務・産業分野
・業務・産業用蓄電システム(300kWh未満)
・業務・産業用蓄電システム(300kWh以上)
系統/再エネ併設分野
・系統用蓄電システム
・再エネ(太陽光・風力)併設用蓄電システム
UPS/基地局分野
・中・大容量UPS
・無線基地局用バックアップ電源装置
その他分野
・直流電源装置(100V系)
・ポータブル電源/小型蓄電システム(非系統連系タイプ)
電池種別分類
・リチウムイオン電池(LiB)
・鉛電池(Pb)
・ナトリウムイオン電池(SiB)
・NAS電池(NAS)
・レドックスフロー電池(RF)
・電気二重層キャパシタ/リチウムイオンキャパシタ(EDLC/LiC)
エリア別分類
・日本
・欧州
・北米
・中国
・その他
