PRESSRELEASE プレスリリース
■空調・暖房/給湯機器の世界市場 40兆8,604億円(75.0%増)
~化石燃料消費抑制など脱炭素化への取り組みを目的に、電気式を中心に市場拡大~
●業務用ヒートポンプ給湯機の世界市場 1兆8,513億円(17.6倍)
~中国では石炭ボイラ規制やフィットネスクラブや温浴施設の増加、欧州では脱炭素化の流れや燃焼機器への規制を強化する動きにより需要拡大~
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、化石燃料消費抑制など脱炭素化への取り組み、欧州におけるロシア産天然ガス依存からの脱却などの流れから需要が高まっているヒートポンプ機器の世界市場を調査し、その結果を「ヒートポンプ 温水・空調市場の現状と将来展望 2023」にまとめた。
この調査では、ヒートポンプ式を中心とした空調・暖房/給湯機器全体の市場を分析したほか、PFAS(有機フッ素化合物)規制などで今後の動向が注目される冷媒やコンプレッサーの最新動向などについてもまとめた。
●業務用ヒートポンプ給湯機の世界市場【業務・産業分野/電気式/給湯】
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2023年見込 |
2022年比 |
2040年予測 |
2022年比 |
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1,547億円 |
146.9% |
1兆8,513億円 |
17.6倍 |
非住宅分野で使用される空気熱源の給湯機のうち、給湯専用機と暖房給湯兼用を対象とする。水や排熱を熱源とする機器は含まない。
国内では、新型コロナウイルス感染症流行の影響や、設備投資意欲の減退などにより一時市場は低迷したものの、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」が宣言されたことで注目が一層高まった。政府は「地球温暖化対策計画(2016年策定)」にて、2030年までに業務用ヒートポンプ給湯機の累計導入台数14万台を目標としている。業務用ヒートポンプ給湯機は従来型の給湯機と比べてイニシャルコストが高額なことなどから急激な導入増は期待できず、今後は従来型の給湯機と小容量の電気式給湯機を併用するハイブリッドシステムが増加するとみられる。
海外では、中国と欧州が市場をけん引している。特に、中国は市場の8割程度を占め、新型コロナによる経済の混乱が落ち着き、需要が回復している。石炭ボイラ規制や経済成長に伴う生活水準の向上によるフィットネスクラブや温浴施設の増加などにより、今後も需要拡大が期待される。欧州では、フランスやドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国などでの需要が高く、特に電気料金が比較的安価といった理由で従来から電気加熱が普及しているフランスが最大の需要地である。欧州では脱炭素化の流れに加え、ロシア産天然ガス依存からの脱却を目的に燃焼機器の規制を強化する動きがあることから、需要増加を後押しするとみられる。
●住宅向けヒートポンプ式給湯機の世界市場【住宅分野/電気式/給湯】
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2023年見込 |
2022年比 |
2040年予測 |
2022年比 |
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3,515億円 |
123.5% |
5,667億円 |
199.1% |
給湯専用機器を対象とし、空調機能を兼ね備えた暖房給湯兼用機は除く。
国内では、東日本大震災以降、一時市場は縮小したものの、2015頃から復調してきた。2021年頃より2010年前後に導入された機器の更新時期に入っており、2023年は政府による補助金によってさらに需要が増加し、市場は大幅増が予想される。更新需要に支えられ2040年には5,667億円の市場が予測される。中長期的には住宅着工件数の減少が予想されることから、既設住宅の導入比率が高まるとみられる。
海外では、政策による強力な後押しがある中国と欧州が市場をけん引している。カーボンニュートラル実現のため、政府主導で住宅内の省エネルギー化が進められることから、今後も市場拡大が期待される。中国では、生活水準の向上により給湯需要が増加している。近年、給湯専用機から暖房機能付きヒートポンプへ需要がシフトしているものの、ガス給湯機からヒートポンプ式給湯機への切り替えも順調に進むとみられ、中長期的に市場は拡大するとみられる。欧州では、住宅設備においてガス機器からヒートポンプ機器への切り替えが進んでいる。かつてはカーボンニュートラル推進が主な目的であったが、現状では欧州全体でロシア産天然ガス依存からの脱却を進めており、切り替えの動きが急速に進んでいる。今後は温暖な地域を中心に緩やかに市場拡大するとみられる。
●排熱回収ヒートポンプの国内市場【業務・産業分野/電気式/給湯】
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2023年見込 |
2022年比 |
2040年予測 |
2022年比 |
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59億円 |
120.4% |
406億円 |
8.3倍 |
温水供給を行う機種のうち、排熱から冷温同時供給が可能な水熱源ヒートポンプおよび圧縮機を用いたヒートポンプサイクルに加えて、吸収式の機構を用いた機種を対象とする。
排熱回収ヒートポンプは、温室効果ガス削減や化石燃料価格高騰により、熱の有効利用が求められる中で、既存熱源機器であるボイラや冷凍機などの代替、あるいはバックアップ機器として注目が集まっている。新型コロナの影響による設備投資意欲の減退などから一時市場は縮小したものの、徐々に経済が正常化していることに加え、2022年以降は2050年カーボンニュートラル実現に向け、大手企業を中心に投資意欲が回復しており、需要が増加している。イニシャルコストの高さが課題であり、加えて昨今の資源価格の上昇による製品価格や電力価格の高騰など、普及に向けたネガティブ要因がみられるものの、ヒートポンプ機器の中でも特に省エネ性に優れていることから長期的には市場拡大が予想され、2040年には2022年比8.3倍の406億円が予測される。
●蒸気/熱風発生ヒートポンプの国内市場【業務・産業分野/電気式/空調・暖房】
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2023年見込 |
2022年比 |
2040年予測 |
2022年比 |
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3億円 |
150.0% |
6億円 |
3.0倍 |
産業プロセスで使用される蒸気を供給する蒸気発生ヒートポンプ、熱風を供給する熱風発生ヒートポンプを対象とする。産業施設の蒸気ボイラに代替する高効率機種として、ヒートポンプ式の需要が高まっている。
熱風発生ヒートポンプが市場の大半を占める。熱風発生ヒートポンプは2009年に前川製作所が「エコシロッコ」を発売したことで市場が立ち上がった。2017年には三菱重工サーマルシステムズが参入し、2018年には前川製作所が循環加温熱風ヒートポンプ「エコサーキット」をラインアップに追加したことなどから市場は緩やかに伸長している。出荷量は年間10~20台程度である。
蒸気発生ヒートポンプは、「2050年カーボンニュートラル」に向けて注目が集まっている。しかし、化石燃料を用いる通常のボイラと比較すると1台あたりの価格が高額なうえ、単体での容量が小さく複数台導入する必要があることから導入コストの問題や、一定温度でまとまった量の排熱が必要などの理由から、導入に至るケースは現在のところ少ない。
◆調査結果の概要
●空調・暖房/給湯機器の世界市場
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2023年見込 |
2022年比 |
2040年予測 |
2022年比 |
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25兆5,715億円 |
109.8% |
40兆8,604億円 |
175.4% |
2023年は、新型コロナによる経済の混乱が落ち着き、設備投資が回復している。一部、ロシアによるウクライナ侵攻など懸念点はあるものの、欧州ではロシア産天然ガス依存からの脱却を目的に燃焼機器への規制を強化する動きがみられ、ヒートポンプ機器の需要が高まっていることから市場は前年比9.8%増の25兆5,715億円が見込まれる。
2040年に向けて、燃焼式は化石燃料消費抑制など脱炭素化への取り組みや欧州におけるロシア産天然ガス依存からの脱却などの流れから縮小が予想される。今後、燃焼式からの切り替えが進む電気式は、住宅、業務・産業向けともに空調・暖房機器が市場をけん引するほか、給湯機器も大きく伸長することから、2040年の市場は2022年比75.0%増の40兆8,604億円が予測される。
●ヒートポンプ機器の冷媒動向(世界)
冷媒とは、ヒートポンプサイクルの中で熱を移動(温度変化)させる熱媒体である。主にフルオロカーボン(フロン)、二酸化炭素、アンモニア、ブタン、イソブタンなどが使用される。フロン系冷媒は、モントリオール議定書発効以降、オゾン破壊係数(ODP)による規制が設定され、CFC(クロロフルオロカーボン)からHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、さらにHFC(ハイドロフルオロカーボン)へと移行してきた。近年は地球温暖化係数(GWP)による規制が始まっており、さらにGWP値の低い新冷媒への移行が検討され、一部の機器ではすでに採用されている。
・ルームエアコンの冷媒動向

2022年は、欧州と中国ではR32、北米ではR410A、その他エリアではR410AとR22が主に採用された。2030年には、途上国においてHCFC(R22)が全撤廃され、先進国でもHFCが70%削減されるとみられる。R22は、R410AやR32への移行が進み、先進国ではHFO比率が大幅に高まるとみられる。欧州ではPFAS規制案が施行された場合、R290への移行が有力視されている。将来的には中国の一部や、ウインドウエアコンでR290が普及するものの、市場の1割程度にとどまると予想される。一方、R32は日系メーカーや中国系メーカーが中心となって新興国に展開することで、2040年には市場の6割以上を占めるとみられる。
・チリングユニットの冷媒動向

先進国ではR410Aが主流であるが、新興国でも採用率が高まっており、2022年の市場の約半数を占めた。新興国でもその他に含まれるR22からの移行が進んでおり、2030年には、HCFC全撤廃によりR22が皆無となる。早期のHFC削減が求められる先進国を中心にR32やHFOの比率が大幅に増加するとみられる。
参考)主要冷媒の種別と冷媒番号
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種別 |
冷媒番号 |
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HCFC |
R22 |
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HFC |
R32 |
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R134a |
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HFC混合 |
R410A |
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R407C |
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HFO |
R1234yf |
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R1234zeなど |
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ノンフロン |
R290 |
◆調査対象
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住宅分野 |
電気式 |
空調・暖房 |
ルームエアコン、住宅向けヒートポンプ式温水暖房機、 地中熱利用ヒートポンプ |
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給湯 |
住宅向けヒートポンプ式給湯機、電気温水器(貯湯式/瞬間式) |
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燃焼式 |
空調/暖房 |
住宅向け燃焼式温水暖房機 |
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給湯 |
住宅向け燃焼式給湯器 |
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業務・産業分野 |
電気式 |
空調/暖房 |
パッケージエアコン/ビル用マルチエアコン、チリングユニット、ターボ冷凍機 |
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給湯 |
業務用ヒートポンプ給湯機 |
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燃焼式 |
空調/暖房 |
ガスエンジンヒートポンプエアコン、 吸収式冷凍機(冷温水発生機)、蒸気ボイラ(貫流ボイラ) |
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給湯 |
業務用温水ボイラ |
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その他 |
冷凍・冷蔵 |
冷凍・冷蔵ショーケース、コンデンシングユニット、自動販売機 |
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輸送・移動体 |
カーエアコン、電動自動車用カーエアコン、 輸送用冷凍・冷蔵ユニット |
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次世代技術 ※国内市場のみ |
排熱回収ヒートポンプ、蒸気/熱風発生ヒートポンプ、 磁気ヒートポンプ、カーボンニュートラル燃料ボイラ |
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