PRESSRELEASE プレスリリース

第24045号

カーボンニュートラル(CN)燃料市場を調査
CN燃料の世界市場は2022年に29.9兆円、2050年には236.3兆円
燃料市場は電化や再エネ利用などに伴い縮小するが、
CN燃料市場は残存する燃料需要を取り込み拡大

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、脱炭素社会のキーアイテムとして再注目される、製造時のCO2排出量を削減し、燃焼時にもCO2が排出されない、もしくは排出量が少ないカーボンニュートラル燃料の市場を調査した。その結果を「カーボンニュートラル燃料の現状と将来展望 2024」にまとめた。

この調査では、バイオマス由来と水素由来のCN燃料を、液体燃料、固体燃料、気体燃料に区分して、世界と日本の市場を2022年から2050年まで予測し、市場拡大のポイントや課題などを整理した。また、自動車、船舶、航空機、発電、産業、その他といった需要分野の動向についても明らかにした。

◆調査結果の概要

■燃料の世界市場場

車載電装システムの世界市場

燃料の世界市場は、燃料を使用する各種製品の電化、再エネ利用の進展などに伴い縮小推移が予想される。加えて化石燃料は、CN燃料へのシフト、化石燃料コストの低下が予想される。化石燃料コストは、将来的な需要減少を見越して新規の油田・ガス田・炭鉱開発投資が大幅に減少し、既存プロジェクトの損益分岐コストで推移することによって、長期的に低下する。化石燃料市場は2022年の603.0兆円から2050年には202.1兆円に縮小すると予測される。

一方、CN燃料は残存する燃料需要を取り込み、2022年に29.9兆円の市場が2050年には236.3兆円に拡大すると予測される。

■CN燃料の需要分野別動向(熱量ベース)

自動車向けは、環境規制や原料原産国での混合義務引き上げでバイオディーゼルやバイオエタノールが伸びる。また、欧州の内燃自動車への条件付き販売認可でe-Fuelも伸長する。自動車向け燃料におけるCN燃料比率は、2022年の4.3%から2050年には37.8%になると予測される。

船舶向けは、IMO(国際海事機関)目標の2050年までに温室効果ガス排出量100%削減に向けて、クリーンアンモニアやバイオディーゼルなどの普及が加速する。CN燃料比率は、2022年の0.0%(僅少)から2050年には35.9%になると予測される。

航空機向けは、ICAO(国際民間航空機関)によるCORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)の導入実現、欧州におけるSAF(再生可能代替航空燃料)採用義務化などに伴いバイオジェット燃料、e-Fuelが普及する。CN燃料比率は、2022年の0.0%(僅少)から2050年には73.4%になると予測される。

発電向けは、バイオメタンや水素・アンモニア混焼による脱炭素化が進展する。CN燃料比率は、2022年の1.8%から2050年には23.9%になると予測される。

産業向けは、短・中期的には木質などの固体バイオマス燃料が有望で、長期的には産業に加え家庭の需要家にもアプローチできる、既存インフラを使用可能なバイオガス/バイオメタン、e-メタン、グリーンLPGが伸長する。CN燃料比率は、2022年の2.8%から2050年には20.3%になると予測される。

その他分野向けは、インフラ投資費用が低い電動化が優勢で、燃料系はドロップイン燃料(エンジン等を改修せずに利用できる代替燃料)の普及が有力視される。

◆注目CN燃料市場

1.ブルー水素

ブルー水素の世界市場規模

ブルー水素は、化石燃料からの改質(天然ガスや褐炭からの水蒸気改質や自動熱分解)とCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の分離・回収・貯留・利用)技術を組み合わせて、製造時のCO2排出量を削減した水素である。

米国では、製造に向けた大規模な設備投資が進んでいる。CCUSに適した土地が多いほか、生産した水素の炭素集約度に応じた税額控除など、ブルー水素製造に対するバックアップも充実している。カナダでは、天然資源が豊富であることに加え、ブルー水素製造に必要なCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:CO2の分離・回収・貯留)に適した地質が多く存在する。特に、アルバータ州などでは、天然ガスを原料とした製造事業が行われる予定で、2040年には水素関連製品を国内外へ展開するといった方針も掲げられている。欧州では、再エネ主力電源化の推進とともに、積極的にグリーン水素製造を進めているが、ブルー水素製造も一定程度行われるとみられる。英国では、北海へCO2を貯留するブルー水素製造プロジェクトや、製造したブルー水素の需要先として水素専焼発電などのプロジェクトが計画されている。中国では、2020年に「クリーン水素認証制度」が整備され、ブルー水素の製造時のみならず、設備生産・建設・運転を含むCO2排出量に対し閾値を設け、閾値未満のブルー水素をクリーン水素と認証している。しかし、中国では再生可能エネルギーが強く推進されており、ブルー水素よりもグリーン水素の市場拡大が予想される。豪州では、2030年までにアジア向けの主要な水素輸出国としての立ち位置を確立すべく取り組んでいる。政府の財政支援はグリーン水素に注力しているが、グリーン水素市場が成立するまではコストの低いブルー水素を中心に取り組むとみられる。韓国では、SK E&Sが2025年に韓国初となるブルー水素製造を計画している。

日本では、現時点でブルー水素製造は行われていないが、2025年ごろより製造実証を進める計画がある。2030年代には商用化フェーズとなり、豪州などとの国際的な水素サプライチェーンが構築され、ブルー水素の消費量が増加すると予想される。2040年以降は、発電分野での利用本格化により大規模な水素需要が創出されるとともに、産業分野での熱利用や製鉄分野での原料利用など、あらゆる分野での水素の利活用が活発化するとみられる。その他地域では、産油国として知られるアラブ首長国連邦(UAE)の取り組みもみられる。

2.グリーン水素

グリーン水素の世界市場規模

グリーン水素は、製造から利用までにCO2の排出がない、もしくは極めて少ない水素である。主に再生可能エネルギー由来電力を利用した水の電気分解から得られる。

米国では、2023年10月に「インフラ投資・雇用法」に基づき、複数の水素ハブが資金提供の対象となった。これらの水素ハブにより、クリーン水素(ブルー水素およびグリーン水素)が年間300万トン以上生産される見通しとなっている。また、米国では、2030年に年間1,000万トン、2050年には年間5,000万トンの水素生産を目指しており、生産能力拡大を目指すとともに、輸出産業の育成も計画している。欧州では、2030年までにEU域内でのグリーン水素製造と輸入を、それぞれ1,000万トンとすることを「REPowerEU」の中で掲げている。2023年11月には、EU域内でのグリーン水素生産のための財政支援、欧州水素銀行の第一回競争入札が開始され、競争入札では、グリーン水素製造支援と普及のため、製造業者へ固定プレミアムを提供する。世界最大の水素需要国である中国では、2060年のカーボンニュートラル達成を表明し、グリーン水素産業の整備に取り組んでいる。豪州では、2030年までにアジア向けの水素輸出国としての立ち位置を確立すべく、2023年度―2024年度予算において、大規模グリーン水素生産プロジェクトに対し、生産コストと販売価格の値差をクレジットとして支援している。

日本では、2020年代は実証フェーズであるが、2030年代に「水素基本戦略」において年間42万トン以上のクリーン水素供給を目標に掲げており、徐々に商用化フェーズに移行するとみられる。しかし、2030年代はブルー水素が先行し、グリーン水素は低調に推移すると予想される。2040年以降は、発電分野での利用本格化、鉄鋼を含むあらゆる産業分野で利活用されることにより、量産化、価格競争力が強まり、ブルー水素を上回る需要が期待される。その他地域では、インドが2030年までに年間500万トン以上の製造を目標として掲げている。チリでは、近年、太陽光発電や風力発電の普及を促進しており、それらをエネルギー源としたグリーン水素・グリーンアンモニア製造プロジェクトが多く立ち上がっている。また、「グリーン水素国家戦略」で、2040年までに主要な製造国になる目標を掲げている。

3.e-メタン

e-メタンの世界市場規模

e-メタンは、グリーン水素と、火力発電所や産業施設などから排出されるCO2を合成することによって製造される。e-メタンの製造プロセスはメタネーションと呼ばれる。

欧州では、ドイツやフランスなどでメタネーションプラントが設置されている。中国では、石油化学工業由来の副生CO2、水素などの利用などを含むメタネーション事業が計画されている。米国、豪州、UAEなど、再生可能エネルギー電力が安価な地域では、グリーン水素製造の適地として想定されており、e-メタン製造についても産業形成が予想される。

日本では、2030年にガス全体における1%以上、2050年に90%以上のe-メタンの導入目標が掲げられており、2040年以降は、量産フェーズに移行すると予想される。

4.e-Fuel(FT合成燃料)

e-Fuelの世界市場規模

グリーン水素とCO2を原料とした合成ガスから、FT(Fischer-Tropsch)合成により製造される液体燃料を対象とする。液体燃料のうち、ガソリン留分、灯油(ジェット燃料)留分、軽油留分をそれぞれ分留・精製することで、各化石由来燃料をそのまま代替することができる。

欧州では、特に、水素のパイプライン整備が想定されるドイツや、豊富な水力発電容量を有する北欧エリアなどで生産が進んでいる。2023年10月にEU域内の空港でのSAFとともに、e-Fuelの使用率に関する法規制が定められたことから市場拡大に大きく寄与すると想定される。また、欧州では2035年以降、内燃自動車の販売禁止が掲げられているが、e-Fuelの使用を前提に販売が許可されているほか、トラックやバス、建設車両などといった内燃車は販売が許可されており、e-Fuelのディーゼル留分の需要形成も想定される。

また、EUのようにe-Fuelの使用が義務付けられている地域は現状では限定的であるが、SAF使用率の義務化は日本を含む他エリアでも設定されはじめている。中長期的には、こういったSAF使用の義務化によって需要が大きく増加するが、原料確保などの観点からバイオジェット燃料の供給量に限界があるため、化学的に大量合成可能なe-Fuelの需要が喚起されるとみられる。

日本では、経済産業省の「グリーン成長戦略」において2050年までの合成燃料のロードマップが示されており、国内事業者も技術開発や実証事業を進めている。2030年に向けては、SAFとして10%の利用が目標とされており、e-Fuelについても一定の需要が発生するとみられる。当面はSAFが中心であるが、商用車や建築機械などのディーゼル燃料の代替としても需要拡大が予想される。その他地域では、太陽光発電や風力発電のリソースが豊富で安価に調達可能な南米エリアでの生産が進んでいる。

◆調査対象

液体燃料
・バイオディーゼル
・バイオエタノール
・バイオメタノール
・バイオジェット燃料
・e-Fuel(FT合成燃料)
・e-メタノール

固体燃料
・固体燃料(木質ペレット、木材チップ、PKS)

気体燃料
・バイオガス/バイオメタン
・ブルー水素
・グリーン水素
・ブルーアンモニア
・グリーンアンモニア
・e-メタン
・グリーンLPG

需要分野
・自動車
・船舶
・航空機
・発電
・産業
・その他


2024/5/9
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