PRESSRELEASE プレスリリース
農業・水産養殖関連の注目市場を調査
●バイオ炭 138億円 (5.5倍)
土地改良材としての需要増加、J-クレジット「バイオ炭の農地施用」での活用で伸長
●農業分野のカーボンクレジットビジネス 15億円 (-)
ベンチャーに加え大手企業の展開進む「水稲栽培における中干し期間の延長」を軸に需要増
●循環式陸上養殖システム 190億円 (11.8%増)
大規模案件による大型投資は落ち着くが、中小規模案件を中心に旺盛な需要が続く
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、 “サスティナブルな農業・水産業"の実現に向け、「生産性向上・高品質化」「農水産業の担い手確保・育成」「環境負荷低減・フードセキュリティ確保」の取り組みが進むなか、業界で注目される農業・水産養殖関連の機器/プラントやITツール(センシング、AI/IoT、ロボットなど)、環境配慮型の資材やそれらを活用したビジネスの国内市場について調査した。その結果を「アグリ&水産養殖ビジネスの現状と将来展望 2024」にまとめた。
この調査では、注目の農業関連20品目、水産養殖関連12品目の国内市場について、現状を捉え、今後の動向を予想した。また、注目の生産物として、人工光型植物工場産野菜、太陽光利用型植物工場産野菜、陸上養殖産水産物、有機栽培野菜の計4品目の市場動向、さらに水産エコラベル認証の取得動向についても整理した。
◆注目市場
●バイオ炭の国内市場
木や竹など生物由来の資源(バイオマス)を高温加熱した炭化物を対象とする。土地改良資材として需要は安定しているが、2020年にバイオ炭を農地土壌へ施用し、難分解性の炭素を土壌に貯留する活動が、経済産業省・環境省・農林水産省によるJ-クレジット制度の「バイオ炭の農地施用」として制定されたことから、新たな用途でも注目度が高まっている。
J-クレジットでの実績は現状ではまだ小さいものの、今後は拡大が期待される。また、「宙炭」(TOWING)のような微生物や有機肥料を付加した高機能バイオ炭の登場により、土壌改良資材としても改めて注目されている。農林水産省の「みどりの食料システム戦略」で掲げられる化学肥料の削減や有機農業の推進、木材残渣やもみ殻など未利用バイオマスの有効利用につながることも追い風となり活用が増えるため、中長期的には大幅な市場拡大が予想される。
●農業分野のカーボンクレジットビジネス
農業分野のカーボンクレジットビジネスとして、経済産業省・環境省・農林水産省による「J-クレジット制度」における「バイオ炭の農地施用」と「水稲栽培における中干し期間の延長」の方法論で創出された取引金額を対象とする。
バイオ炭施用は、バイオ炭を農地へ施用し土壌に貯留する活動(難分解性の炭素を土壌に貯留することにより、本来排出されるはずだったCO2の排出量を削減する)を対象とする。2022年6月に日本クルベジ協会のプロジェクトが初めてクレジット認証を取得し、その後もいくつかの認証取得が進んでいるが、バイオ炭のコストなどにより、クレジット販売価格が他の吸収系J-クレジットに比べ高額なため、実際の取引量は限定的である。現状は高額なクレジット販売価格がネックとなっているが、バイオ炭のコストダウン、土壌改良につながる点や、地域の未利用バイオマスの有効活用がクレジット創出につながる点を訴求することにより、取引量は徐々に増えるとみられる。
中干し期間延長は、水稲の栽培期間中に水田の水を抜いて田面を乾かす「中干し」の実施期間を従来よりも延長することにより、土壌からのCH4排出量を抑制する活動を対象とする。2024年初頭にGreen Carbonやフェイガー、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズが初めてクレジット認証を取得し、以降もクボタや三菱商事など複数社で取得が続いている。ベンチャー企業から大手企業まで認証を受けており、付加価値の高い「自然系クレジット」として今後の市場活性化が期待される。現状は環境意識の高い先進的な生産者による取り組みが中心であるが、今後は農産物生産・販売以外での収益向上を目的とした生産者の取り組みも増えるとみられ、2026年度のGXリーグの排出量取引制度「GX-ETS」の本格稼働も追い風となる。
●循環式陸上養殖システム
海や川などから飼育用水を取水し、餌や糞で汚れた水を浄化して循環利用する養殖システムを対象としており、市場は飼育水槽やろ過槽、水温調節機器、殺菌装置、自動給餌システムなどの関連機器一式の受注金額で捉えた。
世界的なタンパク源の需要増加や水産資源・漁獲量の減少を背景に、養殖場所を選ばずに設置でき、海水温度の上昇や台風・赤潮といった環境変化・自然災害の影響を受けないことから、サスティナブルな養殖システムとして注目されている。
2022年、2023年は、大手企業が展開する大規模案件がけん引し、市場は大きく拡大した。遊休地の有効活用や地域貢献・SDGsを目的とする導入案件も多かった。また、陸上養殖と水耕栽培を組み合わせたアクアポニックスや、複数の魚種や藻類を同時に育てる複合養殖での採用もみられ、養殖・栽培事業による収益確保に加え、資源循環を形成する教育施設や観光施設、また、地方創生および雇用創出の場所としての活用もみられた。
2024年は、数十億から数百億円規模となる大規模案件が落ち着きつつあるため、市場縮小が予想される。しかしながら、中小規模案件を中心とした需要は引き続き旺盛であるとともに、大手企業による投資・研究実証が継続していることから、2025年以降は堅調な市場拡大が予想される。
●無魚粉飼料/低魚粉飼料・魚粉代替飼料
水産資源の枯渇や世界的な水産物需要の増加、また、国内では魚粉や魚油の多くを輸入に頼っていることを背景に、魚粉や魚油の使用量を削減した低魚粉・魚粉代替飼料の研究開発が進められている。無魚粉飼料も登場しており、ここでは無魚粉飼料および低魚粉・魚粉代替飼料を対象とする。
水産用配合飼料の主原料となる魚粉は、原料となるカタクチイワシの漁獲量大幅減や、中国をはじめとする各国での魚粉需要の増加、さらには円安などの影響を受け、価格が高騰している。そのため、価格の優位性から低魚粉・魚粉代替飼料の市場は拡大しており、マダイ向けを中心に展開されている無魚粉飼料も徐々に普及が進んでいる。一方、少しでも安価な飼料を採用したいが、無魚粉飼料/低魚粉飼料・魚粉代替飼料の品質に不安を持つ養殖事業者も多いため、まずは少量での採用となるケースも多い。
今後も魚粉価格の上昇や生産量の変動リスク、輸入依存リスクの観点から、無魚粉飼料/低魚粉・魚粉代替飼料の需要は増加すると予想される。また、養殖魚の安定した成長性や健康を維持しつつ、生産コストを抑制した実用的な飼料の研究開発は急務とされており、将来的には、対応魚種の拡大や品質向上のほか、より安価な魚粉代替原料の登場も期待されるため、市場は順調に伸びるとみられる。
◆調査結果の概要
■注目農業関連20品目の国内市場
人工光型植物工場や養液栽培プラントなどの施設/プラント、また、それらを構成する制御・管理装置などの施設園芸構成機器/システム市場は、建設や運営コストの高騰により設備投資に消極的な事業者も多かったことから、2023年は縮小となった。しかし、農業従事者の高齢化や離農による就農人口の減少などが進む中、栽培施設の集約化や企業による農業参入に伴う大規模栽培施設の増加が期待されるため、2024年以降は市場回復に向かうとみられる。
大きな伸びが期待されるのは、生産者個人の技術や勘・経験頼みから脱却し、作業負担の軽減や効率化、高精度化や、更には環境負荷軽減や脱炭素化などにもつながるモニタリング・センシングや制御・自動化、管理・分析などのスマート化関連機器/システムである。各品目が順調に伸びるとみられ、栽培環境モニタリングシステムや自動操舵システム、農業用ドローン、生産管理システムは既に一定の市場が形成されており、今後のさらなる普及が期待される。また、ロボット農機や除草・抑草・収穫・搬送ロボットは、技術面、価格面の改善やサービスの拡充が進み、市場の本格化が予想される。
生物農薬やバイオスティミュラント、下水汚泥肥料、バイオ炭、農業分野のカーボンクレジットビジネスなどの環境配慮型資材/ビジネスは、生産者や消費者の環境配慮・脱炭素化やSDGsへの社会的意識が徐々に高まっているとともに、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」などの追い風も受け、堅調な伸びが予想される。
■注目水産養殖関連12品目の国内市場
循環式陸上養殖システムや沖合養殖システムなどの施設/プラント及び構成機器市場は、水産事業従事者の高齢化や担い手不足の課題を受けて、持続可能な新しい生産形態として堅調に拡大してきた。また、SDGsや地域貢献を目的とした養殖事業への参入が増えている点も要因となっている。直近では、飼料やエネルギー価格など運営コストの上昇により、ユーザーの設備投資意欲はやや落ち着いているものの、養殖魚の成長促進や収益増加につながる機器の需要は高まっており、市場は緩やかに伸びるとみられる。
漁業環境モニタリングシステムや自動給餌システム、養殖管理システムなどのスマート化関連機器/システムは、水産庁がスマート水産業を推進していることを追い風に、今後の著しい伸びが期待される。特に、自動給餌システムは業務負荷の大きい給餌作業を自動化・省力化できること、また、養殖管理システムは養殖環境/作業のデータを一元管理し生産性向上が図れることから、今後の導入増加が予想される。
環境配慮型資材/ビジネスは、海洋環境の変化や社会的な環境意識の向上を受けて、今後の市場拡大が予想される。市場の大半を占める無魚粉飼料/低魚粉飼料・魚粉代替飼料は、魚粉の価格高騰を背景に、需要は右肩上がりの状況が続いている。また、養殖共生型発電ビジネスや水産業分野のカーボンクレジットビジネス/海洋バイオマス資源化ビジネスについては、今後の本格的な市場形成が期待される。
◆調査対象
農業関連20品目
施設/プラント・人工光型植物工場
・養液栽培プラント
・ガラス/フィルムハウス
施設園芸構成機器/システム
・栽培環境制御装置
・灌水/給液管理装置
・栽培用空調機器
・農業用光源(植物育成用光源、病害虫防除用光源)
スマート化関連機器/システム
・栽培環境モニタリングシステム
・水田水管理システム
・GNSSガイダンスシステム/自動操舵システム
・ロボット農機
・除草・抑草・収穫・搬送ロボット
・農業用ドローン/ドローン活用サービス
・生産管理システム
環境配慮型資材/ビジネス
・生物農薬(天敵農薬、微生物農薬、RNA農薬)
・バイオスティミュラント
・下水汚泥肥料(リン回収由来肥料)
・バイオ炭
・営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)
・農業分野のカーボンクレジットビジネス
水産養殖関連12品目
施設/プラント及び構成機器・循環式陸上養殖システム
・沖合養殖システム
・水産用水温調節機器
・水産用光源・装置(殺菌・育成)
・水産用酸素溶解装置
スマート化関連機器/システム
・漁業環境モニタリングシステム
・自動給餌システム
・養殖管理システム
・魚体モニタリング管理システム
環境配慮型資材/ビジネス
・無魚粉飼料/低魚粉飼料・魚粉代替飼料
・養殖共生型発電ビジネス
・水産業分野のカーボンクレジットビジネス(Jブルークレジット)/海洋バイオマス資源化ビジネス
注目生産物5品目
・人工光型植物工場産野菜・太陽光利用型植物工場産野菜
・陸上養殖産水産物
・有機栽培野菜
・水産エコラベル認証