PRESSRELEASE プレスリリース
EV向けで注目される全固体型リチウム二次電池は2兆7,877億円(1,327.5倍)
市場形成期・拡大期は硫化物系がけん引、酸化物系は2035年以降の伸びに期待
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 清口正夫 代表取締役)は、次世代電池として注目を浴びる全固体型リチウム二次電池などの世界市場を調査した。その結果を「2018 電池関連市場実態総調査 No.1」にまとめた。
この調査では次世代電池の最新の開発状況やキーマテリアルに関する研究動向の把握に加え、次世代電池の有望なアプリケーションにおける普及ロードマップ、次世代電池による既存のリチウムイオン二次電池市場への影響など、次世代電池について広範に調査した。
また、2011年、2016年、2017年と立て続けに技術開発のブレイクスルーが起き、さらには2017年に大手自動車メーカーが相次いで搭載計画を発表するなど、市場形成の機運が高まっている全固体型リチウム二次電池については、電池や使用される材料の製造工程や合成技術、焼成条件なども詳細にまとめた。
世界各国での環境規制に対応するため自動車メーカーは環境対応車の投入を進め、英国やフランスなどでは期限を決めて内燃機関車の販売を規制する動きが出てくるなど、EVシフトの動きが強まっている。一方で、EV向けの電池として使用されるリチウムイオン二次電池は航続距離延長や安全性の向上などの課題も残っており、これらの解決に向けた電池材料の改良と並行しながら、新たな電池として全固体型リチウム二次電池の開発も進められている。全固体型リチウム二次電池は技術的なブレイクスルーもあり、2020年代にはEVに搭載されるとみられ、期待が集まる市場となっている。
◆注目市場
全固体型リチウム二次電池(全固体電池)世界市場
全固体型リチウム二次電池(全固体電池)として、硫化物系、酸化物系、高分子系、錯体水素化物系を対象とする。リチウムイオン二次電池と比較した全固体電池のメリットは、高容量な正極活物質や負極活物質の適用が可能なこと、急速充電に向くこと、リチウムイオン輸率が1であることから安全性が高くなること、出力特性・エネルギー密度・温度特性・サイクル特性・難燃性に優れること、バイポーラ電極(ひとつの集電体の表裏に正・負極電極を形成)が形成可能なこと、ロールtoロールで製造できること、リサイクル性が高いこと、液漏れしにくいなど多岐にわたる。
2017年の市場は21億円となった。既に市場が一定規模形成されているのは高分子系全固体電池のみであり、海外メーカーが主導して自動車向けで展開している。日本メーカーが積極的に開発を行っているのは硫化物系全固体電池であり、EV向けで2020年代前半の量産化を目指して開発が進められている。
酸化物系全固体電池の展開は僅かであるが、受動部品メーカーがチップ型の開発・製品化に積極的でありIoTやウェアラブルといった小型電源部品としての採用が期待される。自動車向けなどの大型電池は、台湾や中国のメーカーが中心となって固体電解質にポリマーなどを添加した疑似固体のシート型の開発に取り組んでいる。一方で全固体のシート型は基礎研究段階であり実用化は2030年頃と予想される。
2035年の市場は2兆7,877億円が予測される。全固体電池の中では、活物質と固体電解質の界面形成が比較的容易で電池の大型化がしやすい硫化物系全固体電池が市場の形成期・拡大期をけん引するとみられ、2035年には2兆1,200億円が予測される。一方、材質が比較的硬く、界面の形成が硫化物系と比べると困難で、大型化に課題のある酸化物系全固体電池は2035年に6,120億円が予測され、安定性や安全性の高さなどから2035年以降の伸びが期待される。
全固体電池とリチウムイオン二次電池における材料の違い
リチウムイオン二次電池では正極活物質、負極活物質、電解液、セパレータが主要材料として挙げられる。全固体電池では、固体電解質が使用されることから電解液とセパレータが不要となるが、正極活物質や負極活物質はこれまでリチウムイオン二次電池に使用されていたものが引き続き採用されるとみられる。
一方で、全固体電池はリチウムイオン二次電池より高容量な正極活物質や負極活物質の適用が可能なことなどから、新しい材料の登場も期待されており、正極活物質では既存のコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムに加え、高容量な硫黄やコバルトフリーの5V級スピネルが、負極活物質では既存のグラファイト、チタン酸リチウム、シリコン系、一酸化ケイ素に加え非常に高容量な金属リチウムなどの検討も進められている。
◆調査結果の概要
次世代電池世界市場
2017年 |
2035年予測 |
2017年比 |
|
全固体電池 |
21億円 |
2兆7,877億円 |
1,327.5倍 |
ポストリチウム二次電池 |
― |
149億円 |
― |
合 計 |
21億円 |
2兆8,026億円 |
1,334.6倍 |
次世代電池は、全固体電池に加えポストリチウム二次電池として金属空気二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池の4品目を対象とする。リチウム二次電池は全固体電池とリチウムイオン二次電池の総称。
現状ではポストリチウム二次電池の市場は形成されておらず、全固体電池の市場のみである。ポストリチウム二次電池はリチウムやコバルトなどのレアメタル調達懸念などから開発が続けられ、一番実用化に近いといわれるナトリウムイオン二次電池は2025年頃から、それ以外は2030年以降の市場形成が予想される。2035年の市場予測は149億円と小規模であるが、リチウム二次電池の市場拡大に伴いレアメタルフリーのメリットも強まることから、低コスト・低環境負荷を強みに、2035年以降市場が本格化するとみられる。
◆調査対象
次世代電池 | 全固体型リチウム二次電池 | 硫化物系、酸化物系、高分子系、錯体水素化物系 |
ポストリチウム二次電池 | 金属空気二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池 | |
その他次世代電池 | ナトリウム硫黄電池、レドックスフロー電池 |
※一部の数字は四捨五入しています。このため合計と一致しない場合があります。